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28. 頭に浮かぶのは
「う、うぅ……」
逞しい男たちが倒れていく。
拳銃を奪い、地面に沈めていく。殺すことはしない。それが組のしきたりだからだ。倒れている中には、春子の義父もいた。気を失ってもらった。
「次だ次っ!」
こういった争いは久しぶりのことだ。
最近はだいぶ平穏ではあったが、跡目争いの関係で虎将が襲われる始末になった。当事者ではないというのに、東雲はやけに楽しそうだった。
根っからの極道ということだろうか。
虎将はふらふらになりながらも最後の男を地面に沈める。
「虎将、大丈夫か!?」
「……ああ、なんとかな」
刺された傷がズキズキと痛む。
春子の義父の力が弱かったおかげで大した深さにはならなくて済んだ。でも痛いものは痛い。
でもあの時の春子の顔を思い出すほうが、心が痛い。
春子にはこんな姿を見せたくなかった。
それなのに巻き込んで、ケガをさせてしまったかもしれない。虎将に手を伸ばし悲痛に表情を歪める彼女は見たくなかった。
すべて自分自身のせいだ。
出会ってしまったから。愛してしまったから、手放すことができなかったから。
いくつもの後悔も、春子と出会った喜びのほうが勝ってしまう。
生まれて初めて心から愛した彼女を一人にすることはできない。
その思いが原動力となり、身体を無理やり動かしていた。
けれど、すでに意識が朦朧としている。
「虎将、ぼーっとしてんな!」
東雲の声で我に返る。
そこには俺の目の前で銃を構える相原がいた。
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