28. 頭に浮かぶのは

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「……負けを認めろ」  相原の放った銃は虎将の顔の横をすり抜け、的外れな場所に当たった。虎将は相原を見つめたまま、微動だにしなかった。  相原はずいぶん場数を踏んでいると思い込んでいたが、姑息な真似をする男なら、人を撃つのも慣れていないのかもしれない。  虎将は、震える相原の手から銃を奪い取り、弾を抜いた。 「俺は相原さんを殺る気はありません。若頭も興味なかった。……でも、あなたのおかげで目が覚めました。神代会のためにも、俺は正々堂々と勝負する。とことん相手になりますよ」  虎将はふ、と笑った。  すると相原は呆然としながら、膝をついた。戦意喪失といった感じだろう。きょろきょろと周囲をみまわし、味方が1人もいないことに気付く。 「……私の負けだ」  相原は呟く。地面に手をつき、呻き始めた。 「どうか、命だけは……」  自分よりも年上の男が情けなく縋る姿は見ていられない。 「これ以上は俺も手を出すつもりはない。ただ、会長には報告させてもらう」 「……わかった」  ようやく終わったかと、息を吐いた。 「組長……!」  少しすると、陽太たちが戻ってきた。 「……遅い。連れていけ。会長に引き渡す」 「は、はい!」  陽太たちは相原や、その他大勢の倒れた組員たちを運んでいく。他の組員は相原が負けたと知れば意識を取り戻した組員たちもやる気はなくなっていた。
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