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02.二人の朝
「ん、んー……」
めずらしくたっぷり眠ったからか、自然と目を覚ました。なんだか強烈な夢を見た気がする。ぱちりと目を開くと真っ白い天井が目に入る。これは自分の家と同じ色だ。でも、寝心地がいつもと全然違う。
「……ここ、どこだっけ」
ゆっくり起き上がると大きなベッドの上にいた。黒いシーツのシックなベッドは春子の家の白いシーツとは正反対だ。それに、大きさがまったく違う。ダブルベッドくらいの大きさのベッドは広々としていて寝心地がよく、二度寝したいくらいだった。
昨日の記憶を手繰り寄せる。確か昨日は仕事でホテルに行って、すぐに帰ろうとしていたのに――。
「おう、起きたか」
「……ひっ!」
ドアが開き、突然現れた男の顔に春子は声を上げる。
「なんだその顔と声は」
男は春子の悲鳴に怪訝な顔をする。その眉間の皺が怖くて、昨日のことを思い出した。
「あ……虎将さん?」
「ああ、おはよう」
「……おはようございます」
どうやら昨日の出来事は、夢ではなかったみたいだ。がっかりしたような、金銭的には助かったような、複雑な気持ちだ。
「よく寝たみたいだな。朝飯食うか?」
「え? はい、食べたいです」
「わかった。風呂も入るよな?」
「あ……入りたいです」
「洗面所に一式用意してあるから、好きに使ってくれ。その間に俺は朝食用意しておく」
素っ気なく言い、彼は寝室から出て行った。
「……ありがとうございます」
記憶がまだぼんやりしているのと、虎将の口から出てくる意外な発言に呆気にとられていた。
昨夜は会社終わりで虎将に捕まり、そのままこの家に来て、眠ってしまったんだった。お風呂も入っていないので少し気持ちが悪い。すぐ家に帰ることもできそうにないので、お風呂を借りられるのはありがたい。
ベッド脇に置いてあったカバンからスマホと化粧ポーチを取り出す。時間を確認すると、もう朝の十時だった。
「うわ、こんな時間まで寝てたんだ」
いったい何時間寝ていたんだろう。でもおかげで頭がすっきりしている。ここのところろくに睡眠をとれていなかったのと、この大きなベッドのおかげだろうか。というか、昨日はリビングにいた気がするけれど、ベッドにまで運んでくれたのか。寝室を改めてぐるりと見回すが、リビング同様に無駄な物はなく、ベッドとサイドテーブルにスタンドのみ。黒を基調とした部屋は朝なのに暗い。ベッドから降りるとカーテンを開けた。いっきに明るい陽射しが差し込む。
「いい景色……」
リビングからとは少し角度の違う景色が眼下に広がる。何度見ても良い景色だ。いつまでも見ていられそうだけど、はやくすっきりしたいので春子は化粧ポーチを持ってベッドルームを出た。
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