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☆
いや、図々しいよね?
というより、厚かましいっていうのかな、こういう場合。
「お願い! 今晩ひと晩だけでいいから、泊めてくれる?」
パンッ、て。柏手打って、神様お願いのポーズ。
ああ、26歳にもなって、常識ないって思われてる。バカで下品な女だって、絶対思われてる。
けど。
「……別に、いいですよ」
「うん、だよね! でも、誓って何もしないからさ……って、え?」
断られる前提で必死の懇願を続けかけた私は、思わずぎゅっとつぶった目を開けた。
「えっと。いま、なんて?」
信じられない思いで、目の前に立つ無表情イケメン君こと、進藤雅貴くんを見返す。
サラサラの黒い前髪の奥、綺麗な瞳にはなんの感情も窺えない。
そこに、侮蔑も軽蔑も、ましてや嫌悪感すらなかった。
ただひたすらの、無。
表情筋、死滅してるんじゃないのかと疑うレベルの反応。
けれども彼は、透明な低い声音で、抑揚なくもう一度こう言った。
「別にいいですよ。ひと晩だけなら。
オレの家、ここから徒歩だと30分かかりますけど歩けますか」
──んん?
本当に、いいの?
えっ? 本当の本当に?
私は、私に合わせてくれているのだろう自転車を引きながら歩きだしたその背中を、半信半疑のまま追いかけた。
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