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彼女いる? って訊くことより、切羽詰まった状況での『泊めてくれる?』を選んだ勇気のない私。
……蛮勇ならあるらしい。
「本郷さんの彼氏は──」
「いたら進藤くんに迷惑かけてないかと」
皆まで言わせず、苦笑いで否定をすると、テーブルを拭いてくれていた進藤くんの手が止まる。
「……そうなんですね。いつ別れたんですか」
「え?」
「……すみません。立ち入ったことを聞きました」
驚いて見返した私に対し、抑揚なく早口で告げた進藤くんは、台布巾を手にキッチンの方に行ってしまう。
私は、進藤くんのインスタントのお味噌汁と自分のワンタンスープにもお湯を注ぎながら、奇妙な心地となった。
スマホのタイマーを操作し、出来上がり時間までの手持ち無沙汰を解消するように、口をひらく。
「私、進藤くんに彼氏の話なんてしたっけ?」
「オンラインゲームの話をした時に」
言いながら、テーブルに戻ってきた進藤くんがコンビニおにぎりのフィルムをはがす。
「……私の男も夢中でやってる、って」
「は?」
パクリと進藤くんが食いついたおにぎりの中身はオカカかぁと。平和な思考の裏側で、ギョッとする。
男って……『私の男』なんて存在は、いつ頃までいたっけ? 少なくとも、進藤くんがバイト始めた当初には、影も形もなかったはず。
──あ。
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