Night THREE

3/4
前へ
/40ページ
次へ
「本郷さん」 透明なはずの声音が、それを表すかのように、にごって聞こえる。 「オレはあなたの弟でもペットでもないですよ」 力の抜けた私の右手を、進藤くんがつかみあげた。手のひらに唇が寄せられて、強く吸われる。 背筋がしびれるような甘い感覚が、走った。 気づけば、そこにあるのは感情のない瞳じゃなかった。くすぶる炎が見えるような、強い眼差しが、進藤くんから向けられていた。 「優しさじゃなくて、ただ、あなたと一緒にいたかった。それだけの、下心ですよ」 「し、下心って……」 進藤くんの口から発せられた思いもよらない単語(ワード)に、頭の先からつま先まで、一気に熱くなる。 ヤバい。私、起きてると思ってたけど、実は進藤くんを待ってるうちに、寝てたっぽい。 ナニコレ、いい夢すぎる……! ぽわんとした気分で、吸い込まれそうな綺麗な瞳を見つめていると。その瞳が半ば伏せられて、唇に熱を感じていた。 やわく触れて()まれる感触が、心地いい。吐息がこそばゆいのに、もっとと願う思いで、自分からも近づく。 「ん……好き、進藤く……」 まくられた上着のすそから素肌をなぞられ、恥ずかしい声が私の口から漏れた、瞬間。 「───すみません」 すっ……と。身体をつつんだ自分以外の温もりが遠のき、我に返る。 夢なんかじゃない。その、謝罪の意味に、急激に罪の意識が胸にこみ上げた。 コレは……あれだ。 若いコの欲望を、年上女が無理に引き出して、襲わせてしまうアレだ。 ああもうっ、私、本当に何して───。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加