Night ZERO 《Side M》

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Night ZERO 《Side M》

空のコンテナを除け、原液の入ったダンボールを台車に載せる。 屋外にある、業務用冷蔵庫内での作業中。何かを踏みつけたと思ったら、鍵のついたキーホルダーだった。 イギリス発祥のウサギのキャラクターがついた、それ。 時折、店舗間移動の商品を、自分の車で運ぶ本郷さんが持ち歩いていたのを、何度か見かけていた。 指先で砂ぼこりをぬぐい、ジーンズのポケットに入れる。 ……帰り際、渡そう。 そう思って、仕事(バイト)帰り、搬入口の外側で制服を着替え終える彼女を待っていた。 ところが。 「お願い! 今晩ひと晩だけでいいから、泊めてくれる?」 オレの顔を見るなり、泣きそうな勢いで頼みこむ本郷さんに、ポケットの中にある鍵を出しそびれた。 ……違う。出したくないと、思った。 なんでもいい、この状況を利用して、本郷さんと少しでも一緒にいられるのなら。        ☆ 「あの、叶絵さん」 ん? と、上気した頬のままこちらを見上げてくる彼女に、一瞬ためらいながら、ポケットから二つの鍵がついたそれを取り出す。 コンビニからの帰り道。このまま何も言わず、一緒に夜を過ごせずに、オレは懺悔(ざんげ)を始めた。 「これ、外冷蔵庫で見つけたんですけど」 「私の鍵! ありがとう、拾ってくれてたんだ!」 「いえ、黙ってて、すみません」 嬉しそうに鍵を受け取る叶絵さんの姿に、複雑な気持ちになる。ありがとう、って。
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