Night ZERO

2/3
前へ
/40ページ
次へ
「おはようございます」 透明な、低い声音。お世辞にも明るさはない。 後ろから声をかけられると、いろんな意味でドキッとしてしまう。 「……おはよう、ございます」 一瞬、ギュンとつかまれた心臓をなだめながら、なんとか笑顔で挨拶を返す。 背の高さは平均より少し高いくらいなんだろうけど、154cmしかない私からすると、結構見上げる形になる。 ベレー帽もソムリエエプロンも無駄に似合っていて、そこらのイケメン俳優にも全く引けをとらないけど、愛想はゼロ。 大学の授業の関係で進藤くんが店のシフトに入るのは、土日と、平日の遅い時間だけ。 つまり、今のような閉店一時間前だ。 「レジ締め、お願いしてもいいですか?」 「はい」 無表情でうなずかれるのにも大分慣れた。愛想がないだけで作業の手際はいいし、おまけに。 「本郷(ほんごう)さん。在庫少ないので北海道生乳2ケースとプレミアムショコラ1ケース、外冷蔵庫から持ってきましょうか」 「わ、助かる! ありがとう、お願いします」 ソフトクリームの原液は何しろ重い。普段、生ケーキや焼菓子の軽いコンテナに慣れた身からすると、一番やりたくない仕事──を、彼はよく気がついてやってくれるのだ。        ☆ そういう、一つひとつは些細なことだけど積み重なりがあって、ちょっといいなと進藤くんに好感を持ち始めた頃の話。 「あれ? それ好き?」 版権元がうるさい某ネズミのキャラクター。の、親友であるアヒルが入ったキャラクター缶のクッキー。 チェーン店の提携のおかげで取り扱い商品のひとつであるそれを、進藤くんが手に取ってジッと見ていた。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

19人が本棚に入れています
本棚に追加