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「おはようございます」
透明な、低い声音。お世辞にも明るさはない。
後ろから声をかけられると、いろんな意味でドキッとしてしまう。
「……おはよう、ございます」
一瞬、ギュンとつかまれた心臓をなだめながら、なんとか笑顔で挨拶を返す。
背の高さは平均より少し高いくらいなんだろうけど、154cmしかない私からすると、結構見上げる形になる。
ベレー帽もソムリエエプロンも無駄に似合っていて、そこらのイケメン俳優にも全く引けをとらないけど、愛想はゼロ。
大学の授業の関係で進藤くんが店のシフトに入るのは、土日と、平日の遅い時間だけ。
つまり、今のような閉店一時間前だ。
「レジ締め、お願いしてもいいですか?」
「はい」
無表情でうなずかれるのにも大分慣れた。愛想がないだけで作業の手際はいいし、おまけに。
「本郷さん。在庫少ないので北海道生乳2ケースとプレミアムショコラ1ケース、外冷蔵庫から持ってきましょうか」
「わ、助かる! ありがとう、お願いします」
ソフトクリームの原液は何しろ重い。普段、生ケーキや焼菓子の軽いコンテナに慣れた身からすると、一番やりたくない仕事──を、彼はよく気がついてやってくれるのだ。
☆
そういう、一つひとつは些細なことだけど積み重なりがあって、ちょっといいなと進藤くんに好感を持ち始めた頃の話。
「あれ? それ好き?」
版権元がうるさい某ネズミのキャラクター。の、親友であるアヒルが入ったキャラクター缶のクッキー。
チェーン店の提携のおかげで取り扱い商品のひとつであるそれを、進藤くんが手に取ってジッと見ていた。
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