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───って。
あれほど念を押したのに。
カウンターキッチンの方角からテーブルへと視線を移した叶絵さんが、とまどったように、うつむく。
「……ごめん。見た?」
よそ行き声の母さんの緊張を、ほぐそうと考えての行為なんだろうけど。
やるなら、叶絵さんに気づかれないようにやって欲しかったよ。我が父ながら、アホだ。
小さく息をついた。そんなオレを見上げた叶絵さんは、いたずらが見つかった子供のように肩をすくめる。
「私こそゴメン。……見ちゃった」
「いや、叶絵さんは被害者だから」
まったく、嫌になる。げんなりした気分でいるオレを気遣うように、ふふっと笑ってみせる叶絵さん。
「仲良いんだね」
「それは……間違いないんだけど……」
引かれて当然の状況なのに、叶絵さんの態度からは、そういった負の感情はみじんも感じられない。ホント、懐の深い人だと思う。
だから、オレみたいな無愛想な男にも優しく接してくれて……なおかつ、好きになってくれたんだろうなって、思った。
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「進藤くん……何考えてるのか、分かんない」
「私と一緒にいても、楽しくないんでしょ?」
「これって付き合ってるって、言えるのかな?」
───中学、高校と。
断っても「友達からでいいから!」という謎の条件で押しきられて付き合った……か、どうかすら、分からない彼女たちの言葉。
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