進藤くんちのウラ事情《Side M》

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大学に入ってからは、 「母親に会ってくれるなら」 と、オレも条件をつけるようにしたら、しつこい人はいなくなったから、助かったけど。 ちなみに、父さんのアドバイスだ。 はっきり言って、自分から興味をもてる女性は皆無だった───叶絵さんに会うまでは。 バイト先で出会った時の第一印象は、普通に可愛いらしい人だなとは思ったものの、それ以上でもそれ以下でもなかった。 叶絵さんはいつも笑顔が絶えなくて、オレの対応が悪くてお客を怒らせた時も、 「いろんな人いるからねー。気にしないで、進藤くんなりに丁寧な接客心がけてくれればいいからね?」 と、オレの代わりに平謝りしてくれたあと、閉店後にそんな声をかけてくれた。 正直、接客向いてないから辞めたほうがいいのかもしれない、他のスタッフに迷惑かけるだけかもしれない、と、考えなくもなかったけど。 叶絵さんの「進藤くんなりに」という言葉が、こんなオレでも続けてもいいのかもしれないと思わせてくれたのも事実だ。 そして、オレとしては仕事の一貫と思って気づいた雑用をこなしていただけなのに、 「ありがとう! すごく助かる〜」 とか、 「進藤くんいてくれて、ホント良かった!」 なんて、心底うれしそうに言ってくれるものだから。 叶絵さんという『職場の先輩』の、もっと役に立てたらいいと、自然に仕事をこなすようになっていた。
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