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オレは、叶絵さんなら……オレの両親を絶対に貶したりしないと、思っていたんだな。
我ながら、小賢しいし、浅ましい。
でも、だからこそ、こうして叶絵さんに両親を紹介できたことが、嬉しい。
叶絵さんの小さな手をつかみ寄せ、そのあたたかな指先に感謝をこめてくちづけた。
「オレ、叶絵さんのそういうところ、大好きです」
「え? いや、え? ど、どこらへんだろう……」
しどろもどろになる叶絵さんは、黒目がちな瞳と合わさって小動物を思わせる。……ケージに入れて閉じ込めておきたいくらい、可愛い。
これも、叶絵さんには言わないでおこう。
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「───じゃ、またね、雅貴くん」
「家着いたら、メッセージください。心配なので」
「ふふ、解った。本当に、今日はありがとうね。あ、ご両親にも、くれぐれもよろしく伝えてね!」
今日、この駐車場に来た時は、叶絵さんのあまりの顔色の悪さに、早まったかなと少し反省もしたけど。
いまの彼女は、すこぶる機嫌がよくて頬も上気して、いっそう可愛らしさが際立っていた。
「叶絵さん」
「ん?」
なかなか見送りきれない自分を振り切るように、オレは身をかがめて運転席の窓枠にひじをつく。
無防備な桜色の頬に唇を押し当て、ちょっと笑った。
「こういう、不届きな輩がいるといけないので、パワーウィンドウはきちんと上げて運転してくださいね」
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