19人が本棚に入れています
本棚に追加
Night ONE
交通量の多い国道から横に逸れた、もうじき桜も咲き始めるだろう並木道。
昼間との寒暖差に夜風が染みて、ぶるっと震えがきて肩をすぼめる。
……うう、まだ防寒着必要だった。ストール、車の中だよ。
「使いますか」
自転車を止め、デイパックのなかから翠色のマフラーをつかむと、進藤くんがこちらに差し出してくる。
なんでもないことのような自然な気遣い。進藤くんは、いつもこうだ。
私がその度に胸の奥をぎゅっとつかまれて、息が苦しくなって、泣きそうになっているなんて。
きっと彼は、思いもしないだろう。
努めて明るく、阿呆みたいなテンションで喜ぶ。
「ありがとう〜っ! やー、もうさぁ、最悪だよね。家鍵と車のキー、一緒にしちゃってるから、車中泊もできないし」
受け取ったそれをおもむろに首に巻きつけながら、私は自分に起きた不運を嘆く。
そう、私は今日、鍵を無くした。
せめて、車のキーさえあれば暖房つけてなんとか一夜を過ごせたのに。
せめて、無くしたであろう場所、空のコンテナの本部回収が、あと一時間遅かったら。
『ああ、災難でしたね。見つかったら明日の朝便の連絡バッグに入れておくってことで、埼玉工場のほうに言っときますよ』
と。急いで電話したエリアマネージャーには口先だけの同情と事務的な対応をされた。
いや、私が悪いんだけどさ。余計な仕事増やした自覚はあるけどさ。
最初のコメントを投稿しよう!