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怪訝そうな彼の表情を見届けてから、僕は部屋を後にした。
***
「あれ、三森じゃん」
「どうしたの?こんなところで」
「ムト」
僕が公園のベンチで寝転んでいると、一匹の猫が身体に乗り心配そうに僕の顔を覗き込む。
ムトは半年前に知り合った近所の子猫だ。
年齢は二歳。品種はアメリカンショートヘア。
「僕、代行者になるんだって」
本来は他言無用なのだが、猫に話すのは問題ないだろう。
「代行者?なにそれ?」
「……やっぱりやめとくわ。忘れてくれ」
ムトは頭がいいとは言っても、子猫に分かる話とも思えなかった。
「気になるじゃん。教えてよ」
「お前、普段空を見るか?」
「まあ。日に一回くらいはね」
ベンチに座りなおして上を見ると、相変わらず一面の白が広がっている。
「じゃあ、あの向こうに何があるか考えたことはあるか?」
「あの向こう?」
ムトも一緒に空を見上げる。
「向こうも何も。空の上はずっと空だろう」
「あれが本物ならそうかもな」
「……どういうこと?」
「あれは空じゃなくて天井。昔の人たちが作った偽物の空なんだ」
ムトが思考の沼に沈んでいるのを見て、僕は言葉を継ぐ。
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