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「そして、その天を統べるのが我らが彼天教の『救済者』であり……」
そこで突然テレビの音声が乱れ、彼の声がノイズの波に飲み込まれていった。
「おい、もう下げるからとっとと学校行け」
上の空で画面を見つめていた僕に、店主が厨房から声を掛けてくる。
「かけそば一杯で長々と居座られたら迷惑だ」
「……かけそば?」
僕はとてもそばとは思えない乳白色の麺を箸で持ち上げ、思わずつぶやいた。
「僕の知ってるそばとはずいぶん違いますけど」
持ち上げた箇所からすぐにボロボロと崩れ、半透明の汁に浮かんでいく。
「ほぼ小麦粉でしょ。これ」
「そば粉が混ざってりゃそばなんだよ」
僕の目の前から器を取り上げた店主は、足早に厨房に戻っていく。
僕がこの店に初めて訪れたのは、小学生の時に両親に連れられて来たときだ。
去年、久しぶりに立ち寄った際には、当時と比べて客の数以外なにも変わっていないこの店と店主には驚いたものだ。
街の退廃はこれだけ進んでいるというのに。
テレビの方に向き直ると、画面はすでに砂嵐に切り変わっていた。
「おじさん、なんで今時テレビなんて付けてんの?趣味?」
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