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プロローグ
「つまり、そう遠くない内に救済者は現れるのです」
断続的なノイズだけを発していた頭上のテレビから人語が聞こえてきたことにハッとして、僕は目線を向けた。
画面の三割程度は白と青の筋で埋まっているものの、こちらに向けて話している人の顔が判別できる。
「人類の世界的な人口減少が始まって数十年、目に映るのは死と廃墟ばかり」
「今となっては生への絶望や諦観する心も擦り切れて」
「破れた傘の骨だけを抱えて雨の中を歩くような」
「ただ重いだけの空っぽの心を抱えて生きているような」
「そんな世界になっています」
僕以外に客のいないそば屋の店内に、厨房の洗い物の音に混じって淡々とした男性の声が響く。
画面の乱れのすき間から見える彼の顔は、落ち着いた話し方やトーンとは裏腹にやけに若く見えた。
僕は持っていた箸を置いて、プラスチックのコップから水を口に含む。
喉を通る水がやけにぬるく感じた。
「しかし、これは終焉ではない。選別なのです」
「この厳しい篩に掛けられ生き残った者たちこそが選民であり」
「ともに新たな天を見るべき我々の同志!」
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