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 今日はなんか集中できないな、そう思った私は窓の向こうを見る。  天気予報どおり雪は深々と降り続ける。塾の室内にいても窓際の座席は肌寒い。  誰かが指名された問題の答えを心の中で「班田収授法」と答えて、私は目を閉じる。  講義の終わりまでボーっとしながら過ごした。  終わると同時にコートを羽織ってマフラーを巻く。今日は早く家に帰ろう。  塾のビルを出ると冷たい風が室内で暖まっていた頬を襲い、前髪を巻き上げる。こんな雪の舞う日に歩いて帰るなんてバカみたいだけど、あと数年は私はこの町に住むんだろう。  なんとなく一歩を踏み出せずにいると、 「さくら、帰らないのか?」  という声が聞こえた。名前を呼ばれて振り返ると、同級生の木下 律樹(りつき)が立っていた。 「雪が降ってるなーって思って」 「当たり前だろ、冬なんだから」 「なんか寂しいじゃん」 「何が? いつものことだろ?」 「律樹に言った私がバカだったよ……。風情(ふぜい)のカケラも持ち合わせたないんだから」  私は大げさにため息をついて、一歩踏み出した。  何度も除雪されているはずのアスファルトは薄っすらと雪が積もっていて、私が歩くたびに後ろに足あとが増えていった。
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