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翌日、先生からも親からも、試験を受けに行かなかった理由を問われたが、言えるわけがない。
ずっと黙っている俺に先生も困り果てていた。
怒られると思っていたのでちょっと意外だった。
受けに行けなかった正当な理由があるなら、再度大学側へお願いするとまで言ってくれたが、正当な理由には当たらないし、これ以上迷惑をかけるわけにもいかないので断った。
呆れられながらも担任から一般受験を勧められた。
だけど、空手しかやってこなかった俺が、今更一般受験の勉強して、二か月足らずでどうにかなるものでもないだろうし、なにより、モチベーションが全く上がらず、そうまでして入りたいとも思えずに、すっかり腐っていた。
そんな時に、親友のタケにカラオケに誘われた。
何があったか知らないが、歌って発散しようぜ、と。
やるせない気持ちを、心の叫びを歌に乗せてシャウトした。
少しスッキリした。
そうすると、俺間違ってないよな?という思いが湧いてきて、向かいのファミレスに入ってタケに話を聞いてもらった。
「なんだその女。自分勝手だな。諒也の未来潰しといて。せめて試験終わってからにしろよな」
「タイミング悪いな、とは思ったけどさ。まあ、ずっと不安だったみたいだし」
「だけど、諒也は学校やめて働く覚悟までしてたのに。結婚も。その覚悟評価してやれよな」
「まあ、俺にも責任あったわけだし」
「で、その後、その女とは?」
「なんも。こっちから連絡しても返信がねえ。既読にはなるから、もう俺は必要ないんだろ」
「は?既読無視とか、ふざけてんな!せめて返事返せっつーの!俺的には諒也がそんな女と結婚しなくて良かったと心底思うよ」
そんな話をしていたら、さっきまで俺たちがいたカラオケ店から、高校生が出てきたのが目に入った。制服から、同じ学校のやつらだろう。
何気なく見ていたけど、見知った顔だと気づいた。
「あ」
「ん?何?」
「あいつ。元カノがいる」
「は?!…なんだあの女。もう別の男がいるのかよ。信じらんねえ!」
「元気そうでなによりだよ」
元カノの姿を見ても、何の感情も湧かない自分にビックリした。
「あの女~!諒也が心配してんのに無視しやがって!文句言ってきてやる!」
「やめろよ。ほっとけ。もう関わりたくねえ」
「諒也…。お前、女運悪いな」
「だな。…しばらく、女はいいや」
自分が蒔いた種ではあるが、振り回された疲労感が半端ない。
「なあ、諒也」
「うん?」
「お前、俺と一緒にバンドやらね?」
タケと一緒にバンドをはじめたのは、高校三年の冬だった。
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