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ある日、映像監督の杉野さんに声をかけられた。
「リョウ、次の日曜、空手の大会を見に行くんだけど、お前も来いよ。人材発掘に行くぞ。強くて可愛い子探しに行こう」
「え?強くて可愛い子?」
俺より先にカイが反応した。
「人材発掘?わざわざそこまでするんすか?」
「俺は妥協しない男なんだ」
「次の日曜…あ、俺その日午後別の仕事入ってるから、そんなに長くいられないかもしんないっす」
「え!それならオレ行きたいっス!」
カイがすかさず言う。
「え?カイが?でもお前、空手に詳しくないだろ。お前が対戦するわけでもないし」
「大丈夫ですって!空手の大会なら、みんなある程度空手はできるっしょ!そのうえで可愛い子探せばいいんでしょ?まかせて下さいよ~!」
「ナンパしに行くんじゃないんだからな」
「失礼だな~。わかってますよ!」
なぜかカイは浮かれている。
カイが行くなら俺はいいのでは?と少し思ってしまった。
面倒だなと思いつつも、付き合いなので少し顔を出せばいいかな、くらいに考えていた。
そして日曜日。
まだ駆け出しとはいえ俳優業もやっているので、できるだけ目立たない恰好で行こうと、ダーク系のシンプルな服で会場へ赴いた。マスクは余計目立つかな、と思い帽子だけにした。
夏前の高校総体だ。懐かしい。
三年生はこれが最後の大会のはずなので、みんな気合が入っている。
良さそうな子をチェックしてくれと言うが、何をもって良しとするのか、基準は何なのかよくわからない。
もやる俺の横でカイが嬉しそうに言う。
「うお~。JKだ!女子高生!わっかいね~。ピチピチ!」
「やめろ。発言がオッサン過ぎる」
「できれば制服姿が良かったけど、しゃあない。お!あの女の子デケーな!しかも強そう!あ~でも顔がな~。俺の好みじゃねーな」
「お前の好みの子探してんじゃねーんだよ」
「お!あの子かわいい!あ~でも、すぐ負けちゃった。いかにもか弱そうだもんな。なんで空手やってんだろ」
カイは回りを見渡して高校生たちを物色している。
俺は監督の横にいる男性が気になった。
「ところで、杉野監督の隣にいる人誰だ?」
「え?知らね。なんか、友だちらしいぜ」
友だち?
ただの友人が一緒に見に来るか?
何かの関係者なのだろうか。
俺がずっと見ていたからか、その人が俺の視線に気づいた。
その人はニコッと笑って、
「リョウくんだね。柳です。よろしく」と言った。
その後も会場内の高校生たちをそれとなく見ていたが、疲れてきた。
「…俺ちょっと外で休憩してくるから、カイがチェックしといてよ」
「お?オッケー!」
アホらし。
だいたい、本当にここで強くてかわいい子がいたとして、その子にいきなりMVに出てくれって言うのか?
効率悪過ぎんか?
けど、芸能のスカウトってそういうもんなんだろうか。
骨が折れるな。
そう思いながら、会場の外に出た。
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