生意気な女

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生意気な女

しばらくして、MVを撮影する日程が決まった。 プロットを見せられイメージを膨らませる。 俺がメインになるのだが、ところどころで演奏シーンも差し込まれる。 あと、メンバーたちはちょい役で出たりする。 例えば、闘う俺を応援する観衆役とか。 今回はなんといっても格闘シーンが見せどころだ。 女の子が相手なので手加減は必要なのだが、手を抜き過ぎても迫力に欠ける。 どこまでやれるか…。 そして、女の子がやってきた。 二人いる。一人はどうやら付き添いらしい。 監督から紹介され、俺は思わず「え!」と声をあげてしまった。 それは、あの非常階段で見た失礼な女だったからだ。 あの日はポニーテールだったが、今日は髪を下ろしているのでまた違った感じで大人しい印象だ。 真正面から見ると、確かに顔は可愛い。 ちょっとぼんやりした感じが隙があるように見えて、加護欲を引き立てられる。 「なんだ?リョウ。めぐちゃんのこと知ってんのか?」 「あ、いや」 驚く俺を不思議そうに見るその子は「はじめまして」と何もなかったかのように挨拶した。 その反応に疑問を抱く。 もしかして、非常階段にいたのが俺だと気づいてない? それか、なかったことにしているか。ただ忘れているだけとか。 いずれにしろ、あの日睨んできた目とは違い、穏やかな表情だった。 それにしても小さい子だな。 並んではじめて気づいた。 身長差が20cmくらいはありそうだ。 これで互角に戦えと? 体格差もあるが、彼女は仮面をつけるので、視界も悪くなるだろう。 かなりやりづらいと思う。 大丈夫なのか? アクションの演技指導の監督から、アクションシーンの説明を受ける。 動きの確認をしたあと、衣装へ着替えるため、彼女はスタッフに案内されメイクルームへ移動していった。 俺も衣装に着替え、アクション監督と話をしていた。 特撮ドラマに出演していたので、アクションの演技指導は受けたことがある。 あの時は複数の敵を相手にしていたので、立ち回りの練習にかなり時間をかけた。 今回は1対1だが、相手は素人でこのような撮影は初めてだ。 俺がリードしなければいけない。 そのうえ一般人に怪我でもさせたら大ごとだ。 アクション慣れしている女優が相手であれば、そこまで気をもむ必要もなかっただろうに。 知らず知らずため息がもれていた。
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