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そんな俺にタケが話しかける。
「なんか憂鬱そうだな」
「そりゃそうだろ。相手は空手経験者って言ったって女の子だし、万が一ケガでもさせたらって思うと憂鬱にもなる」
撮影中に事故なんかが起こった場合、保険とかちゃんと対応できるようになってるよな?などと、しなくていい心配までしてしまう。
「可愛い子だったね。ケガはさせたくないね。よく協力してくれたよ。どうやって交渉したんだろ?俺はじめ、諒也目当てなのかと思っちゃった」
「俺目当て?」
「監督、諒也連れてったろ?このイケメンと対決しますよ~て諒也をエサにしてんのかと思った」
「…なるほど。俺はエサだったのか。
交渉はどうやったのか知らないけど、あの子、監督の知り合いの紹介っぽいんだよな。だったら初めから俺ら行かなくてよくね?て思ったけど、そういう意図があったのか」
「ん?大会で発掘してきたんじゃないの?」
いまいちわかってないタケに、監督の友人が一緒に来てたことを説明する。
そんな話をしながらしばらく待っていたら、衣装に着替えた彼女が現れた。
わ。化粧映えするな…。
カイが騒ぐのもわかる気がする。
当の本人は緊張しているのか、なんとなく顔が強張って見える。
リハーサルで立ち回りをしてみることに。
え?
おいおい…。なんか、やけに力入っているな。
「緊張してる?カメラ意識しなくて大丈夫だから」
優しく声をかけたつもりだが、彼女の力は一向に弱まらない。
先ほど、ある程度の段取りは決めたものの、実際手合わせをするのははじめてだ。
立ち回りをもう少し細かく決めようとしたのだが、アクション監督から自由に対戦してみて、と言われ戸惑う。
いや、そんなワケにはいかねーだろ!
俺は彼女の実力を知らないんだから。
しかし、だ。
戸惑う俺とは逆に、彼女は容赦なく攻めてくる。
おい…、おいおい。
なかなかやるじゃないか!
ちょっと楽しくなってきてしまった。
「蹴りはどこまで届く?…お、いいじゃん!体柔らかいね!
痛って。まだリハーサルなんだから、力抜いて体力温存しといた方がいいよ」
そんなやり取りをしながら練習していたが、監督が横から煽るような声を彼女にかける。
「めぐちゃん!手加減なしで、本気でリョウをやっつける気でいって大丈夫だよ。そいつフルコンタクト10年やってて黒帯も持ってたし、全国制覇もしてるから遠慮はいらないよ!当てても大丈夫!」
なんてこと言ってんだ!
黒帯は少年部のだし、優勝したのは新人戦の一回だけだ。
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