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産婦人科に似つかわしくない高校生カップルがいる。
視線が痛い。
おそらく、みなさんわかっていらっしゃる。
デキちゃったんだな、と。
ずいぶん待たされてから、やっと彼女が診察室に呼ばれた。
俺は彼女に言われるまま待合室で待っていた。
それからどれくらい経過しただろうか。
彼女が出てきた。
俯いて暗い顔をしている。
「どうだった?」という俺の問いに「外出てから話す」と一言だけ返し、あとは終始無言だった。
なんとなく嫌な予感がする。
会計を済ませてから外に出る。
そのまま歩き始めた彼女に、いつになったら教えてくれるのかと焦れて名前を呼んだ。
「ユイ。もう話してくれてもいいだろ」
「……かった」
「え?」
「…赤ちゃん、いなかった」
「は?」
「妊娠、してなかったみたい」
「え?してなかった??いなくなった、とかじゃなくて?もともと妊娠してなかったってこと?」
「そう、みたい」
「え?だって、検査薬で陽性だったんだろ?」
「そうなの!うっすらだけど、ちゃんと縦線入ってたんだよ!だけどね、妊娠検査薬で陽性だったとしても、子宮の中に胎嚢がなくて、妊娠してない場合があるんだって。化学流産ていうらしいんだけど」
「かがく、流産?」
「そう。生理と似たような出血があるらしくて、普通に生理と間違えて、知らずに化学流産してる人も結構多いんだって」
「そう、なんだ…」
なんだかよくわからないが...。
え?
てことは、どういうことだ?
妊娠してないってことだよな?
あれ?
これ、安心していいとこ?
「妊娠してない、のか…。なんだよ、もう~。はぁ~、良かったぁ~!」
妊娠してなくて良かったと思うのは、やはり覚悟が足りてなかったんだと思う。
心底ほっとして出た言葉だったけど、ユイは不機嫌になった。
「…は?なにそれ。リョウくん、やっぱりできてなくて安心してんじゃん!」
「え、だって…」
「いいよね!リョウくんの不安なんて一瞬だったもの。私はこの一週間ずっと不安だったのに!」
それって、どう言えばいいんだ?
「妊娠した!って思って、凄い不安で。リョウくんに言うにしても、もう別れちゃってるのに、赤ちゃんできたって言ったら困るよね?なんて言われるんだろう?て考えたら、凄い怖かったし。友達に相談だってすぐできなかったし。一人でずっと怖くて、不安で…。
こういう時負担になるのは女の方なの!男はズルいよね!」
「……ごめん」
それ以外に言葉は出なかった。
少しして、彼女が帰ると言うので送ろうとしたが断られた。
俺はどうするのが正解だったわけ?
やるせなくて、しばらくその場で佇んだ。
入試、受けに行けなかったな。
怒られるだろうな~。
なんか、すっごい、疲れた。
その後、こちらから近況を訊ねるも、彼女からの連絡は何もなかった。
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