ラグナロク

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「『ラグナロク』ぅ〜?」  めんどくさいとばかりに呟いたのは、金髪に黒いメッシュで、青と黒の服を着た男……レイン。オレのことだ。一方、向かいに座っているのは情報屋の女性、ルマイ。彼女は人間だ。黒い長髪でハンチングを被り、スーツを着ている。  彼女はいつも「レインくん!情報が入ったよ!」とハイテンションで駆けてくる明るい女性だ。スーツのスカートが動きにくいらしく、よく転んでいる。しかし転んだときは必ずと言っていいほど優勝しているので、『転ぶ』というのは願掛けになっている。もちろん転ばない日もあるが。 「スローガンが『者共、憎め、恨め、そして殺し合え』って明らかにヤバイじゃん」  オレはストローが刺さったアイスティーをズゴゴゴと音を出しながら飲んだ。 「あなたが最初に出場した大会なんて『街に紅の雨を降らせよ』だったじゃない。そんなもんでしょ」 「トマト投げ大会だったくせに……」 「何か言った?」 「いや」  オレは目をそらす。バーの店主が苦笑いした。……ような気がした。だって目を隠してるんだぞ?わかるかよ。 「で、やるの?やらないの?」 「……パスで」 「バカ!豆腐の角に頭ぶつけて死ね!」 「はぁ?!豆腐?!……って物投げんな!」  ルマイは怒ると物を投げる癖がある。その中には『ラグナロク』のポスターが入っていた。オレはパシッ!とキャッチし、他の物を防ぐ。 「じゃあ!店長、お代」  ルマイはゴクゴクと残ったお酒を一気飲みし、立ち上がったあとお金をバン!とカウンターに置いた。さすがに店主には投げなかったようだ。 「またどうぞ」  店主はヒラヒラと手を振った。 「………………はぁ……。オレも。お代……」  チャリ、と置いて立ち上がる。このお金は大会で得たものだ。火の車というわけではないが、使いどころにも困る。オレなんて、使っても幸せなんて感じられないだろうし……。 「また来てね」 「ん」  手元に残った小さなポスター。オレはポケットにポスターを入れ、その場を去った。  ──ルマイが勧めていた『ラグナロク』。確かに出場条件は揃っている。だが……。今まで出ていたのは『トマト投げ大会』やら『炭酸早振り大会』など意味不明なものばかりだった。それに比べて『ラグナロク』は甘くない。流血沙汰の大会だそうだ。それに『憎め、恨め』なんて……。関わる者はルマイくらいだ。嫌な人なんてどこにもいない。だが、オレは強くならなければならない。やはり出場すべきか……。  この世界の悪いやつを倒していく……勇者紛いの行動だが、仕方がない。ここは人間であるルマイを救うと考えなければ。  ……オレは『ラグナロク』エントリーする。心に決めたんだ。
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