4 夜明け前

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 輝明の恋人のことはほとんど知らないが、きっとよく愛された人だったのだろう。と、綺麗に磨き上げられた墓石と、優しく咲いている名も知らない仏花を見て感じた。  輝明はまだ彼女のことを語るほど傷が癒えていないせいか、墓参りを終える頃になっても表情は固く、無言のままだった。だが、墓に背を向け、帰ろうとしたところで、少し早い春の訪れを感じさせるような柔らかな風が吹き、輝明は足を止める。 「輝明?」  俺の呼びかけには応えず、輝明は後ろを振り返り、数秒間静止する。その横顔から悲壮感が溶けるように消えたかと思えば、つ、と一筋の雫がきらめきながら流れた。 「輝明」  肩にぽんと手を置いて、何気なく地面を見た俺は、目についたものを拾い上げ、輝明に差し出した。  輝明はそれを見て、ふっと笑う。  四つ葉のクローバーが、輝明のこれからに幸せがあるようにという彼女の願いを乗せ、美しく芽吹いていた。 「柊真、最後の頼みなんだが……」 「……うん」  輝明が俺を見る目に、驚きの色が宿る。 「てるあ……」  名前を呼びかけた途端、俺は自分の右頰を流れ落ちる涙に気がついた。 「あ、れ……」  困惑し、涙を拭おうとするも、左目からも溢れ、止めようとすればするほど、後から後から流れて止まらなくなった。 「柊真」 「へん、なの。俺、ただ、輝明がいなくなるのが寂しくて、そしたら何か泣けて……っ」  しゃくり上げれば、輝明は勢いよく俺を抱き締めた。 「てる……」 「柊真」  優しく呼びかけられたかと思うと、顎先を掬い取られ、柔らかな口づけが降ってきた。驚きで、ぴたりと涙が止まる。 「てるあ……ん、んう」  まるで喉が乾きすぎた人間が水分を求めるように、貪るように激しい口づけをした後に、輝明は耳元で囁いた。 「悪い。俺の最後のお願い、無理やり叶えてしまったから、もう一つ頼んでいいか」  続けられた台詞に、俺は嬉しさのあまり今度は自分から輝明にキスをしていた。
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