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1 終わりのない夜
男を部屋に招き入れ、何と声をかければいいか迷いながら、とりあえずテレビの前のソファを勧める。
「どうぞ。狭いけど」
「……」
男は黙したまま、すっと音もなくソファの片隅に座る。俺は男を刺激しないよう、離れて座りながら、思考を巡らせた。
自殺しかけた人間を救ったのはいいが、その後どうすればいいかという具体的なプランがあるわけではない。
俺はカウンセラーではないし、心に響くような言葉を聞かせて、未来に希望を与える、などと大それたことができるわけでもない。
だとしたら、何をすればいいのか。
今になって八方塞がりなことに気づき、焦りを覚えるが、自殺を止めたこと自体は一切後悔していない。
――のように喪うわけには、いかない。
「そうだ。喪うわけには、いかない」
胸の内に響いた声に応え、繰り返すと、頭がぼうっとしてきた。
「……?」
隣にいた男が、僅かに怪訝そうな目で俺を見る。その目にはほんの一欠片の意思が宿っているが、大半は先ほどと同じように虚無で、空洞そのものだった。
俺は霞がかかったような思考の中、その目を見つめていると、誰かに自分の体を操作されるように、すうっと意識を持っていかれた。
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