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10話 生徒会
そして翌朝、よくよく考えたら学園長に用意してもらった宿で泊まることはなかった。
せっかくの配慮を無駄にしてしまったと感じながらも、俺は学園長に言われた通りブロッサム魔法魔術学園にきていた。
姉ちゃんは用事があるとだけ伝えてどこかに行ってしまった。
自分が育てた俺の学園デビューの日だというのにほったらかしってどうなんだ?
そして校舎前を歩いていると、変な輩に絡まれた。
よくいる不良少年って感じのやつだ。
付き人を従え、偉そうな振る舞いをして他の生徒を威嚇している。
「おうおうおう兄ちゃん。編入生か? たっぷり可愛がってやるからちょいと面貸せよ」
「は? 何で?」
俺がそう答えると、不良少年は怒りを露わにしていた。
受け答えが気に入らなかったのだろう。
でも見た感じ格好といい、香水、高価そうな装飾品をしていることから貴族だというのはすぐわかった。
貴族が平民を罵るのはマンガやアニメの世界でもお約束。
まあ、上流階級の人間だから偉そぶるのが仕事みたいなところもある。
こうやって変に絡んでくるやつには関心しないが。
「平民のくせにイキリやがって。生意気な態度取るってんなら叩きのめすぞ」
「ふ~ん、で?」
「やめときましょうぜ兄貴。こいつ何か変でやす」
「俺っちも賛同っす」
付き人と言うより、まるで従者みたいだな。
こいつらも貴族なら……そっか貴族にも確か階級があったな。ということは、こいつら二人はこの不良少年より階級は下か。
ご愁傷さまとしか言いようがない。
「お前ら黙ってろや。今、俺様はコイツと話してんだろうが」
そう言って不良少年は付き人の一人を殴り飛ばした。
うわ~いったそ~。
呑気に構えている俺だが、解決策はまったく思いつかない。そんな時だからこそ、もう笑うことしかできなくなり、呑気に眺めているのだ。
周りの奴らもそうだ。
口では「ひどい!」だの「あの人また?」とか言う割にこの状況を止めようともしない。
いるんだよなこういうやつら。
自分が痛い目に遭いたくない、関わりたくないからとずっと近くで見てるやつ。ただの傍観者が。
「あなた達、そこまでにしておきなさい」
その声と同時に辺りがざわつき始めた。
登校初日からほんと俺ってさんざんだ。
おまけにこれから目を付けられそうだし。
「なっ!? 生徒会の奴らか。見られちまったら仕方ねぇ。この男だけでも」
不良少年が握った拳を振り上げた瞬間、一筋の閃光が迸った。
閃光は不良少年の首へと命中し、意識を失くし、口から泡を吹いて倒れた。
「本当によく飽きないものですね。あなたが編入生ね。学園長から話は聞いています。わたくしは二年のユリアナ・オブリージュ。この学園の生徒会長という立場に就いています。どうぞお見知りおきを」
柔らかな態度で握手を求めるユリアナ。
俺は彼女のそのキレイな髪に見惚れつつあった。
腰まで伸びた黄金色の髪は陽の光で眩しく輝き、風が吹くたびに毛の一本一本がまるで生きているかのようになびく。それだけサラッとしていて艶のある髪だということだ。
もちろん顔立ちもそこらの女性より一際目立っている。
それに白い肌はお人形のように美しい。
「どうも、俺はネオと言います」
「家名は?」
「その色々ありまして……」
「ふーん。平民というのも大変なのですね」
「ま、まぁ……あはは!」
出た出た。平民だからと差別する連中。
生徒会長ってことだから、このユリアナはその親玉みたいなものか。
後ろにいる連中は、それにしてもえらくだんまりだな。
「後ろの方々もわたくしと同様、生徒会役員です。左からわたくしの妹――同じく二年の副会長シンシア・オブリージュ」
「は、はは初めまして。わたしがシンシアです……」
容姿は姉妹ってこともあってとても似ている。
学年が同じってことは双子か。
だが性格のほうは姉のユリアナとは違い、可愛らしく大人しいイメージだ。
「中央は二年で書紀のレノ・ライル。こう見えて彼は平民の一人です」
「チッ、よろしくな。お前平民だってな歓迎するぜ」
レノは同じ平民扱いの俺を歓迎してくれているようだ。でも見た目が怖い。茶髪に頬から首にかけての大きな傷跡、身体は鍛えているのか筋肉ムキムキだ。
いや~なんか男としては憧れる。
「最後に総合委員ヴォルタ・バルセロナです」
「オレの名はヴォルタ・バルセロナだ。よろしくはしないでおこう。所詮は平民、伯爵家のオレとは釣り合うことはないからな」
「は、はぁ……」
その言葉にため息混じりの反応しかできなかった。
やっぱり貴族は皆、こういう生き物らしい。
高貴だからと自分より階級が低い者を見下す。
この生徒会メンバーで仲良くできるとしたら、レノ先輩ぐらいか。
「そんなわけで平民であっても歓迎するわ。学園長がお待ちよ。すぐに向かいなさい」
「はい」
と、なんか自己紹介されたけど正直興味がない。
でもあの態度はさすがに腹が立った。
俺も一応は元貴族なんだ。けどわけあって平民になっただけのこと。
それよりもすごいことに俺には今、悪魔の姉ちゃんがいる。こんなにもすごいことってあるか?
ないに決まってる。
それに貴族なんかより立派だ。姉ちゃんを見てみろ。優しい、綺麗、それに色々と強い。全部揃ってるじゃないか。
姉ちゃんのすごいところを挙げているとキリがない。
俺は校舎の中に入った。
中央の階段を昇り、学園長室に辿り着く。
そしてノックしようとすると、
「ネオね、入りなさい」
「失礼します」
中に入ると、そこには学園長と姉ちゃんの姿があった。
二人が笑顔でいるってことは、まあ、それなりに仲良くはできてるみたいだ。
「さんざんだったわね。初日そうそう」
「はい……それよりこの学園、もしかして不良ばかりとかではないですよね? この先が心配なんですが」
「安心してああいう出来損ないはごく一部。まあ、わたくしからしてみれば生徒会も出来損ないの集まりといった認識だけど」
「あはは、そうなんですね」
笑えない、笑えるわけがない。
でも生徒会すらも出来損ないってこの人はどんだけの人なんだよ。
けど、そういう考えになっても当然か。
姉ちゃんと同じ悪魔だし。
「ユリアナ・オブリージュ」
「生徒会長さんですよね」
「ええ、そうよ。このアルスレーン王国では名門家で四大貴族の一つ。そんな跡継ぎの彼女は生まれながらに【魔法】・【魔術】の才は他者より飛び抜けていた。それもあってか、人を見下す傾向にある。それに性格は論外。まあ、それは彼女だけでなく、貴族の皆がそう。だから何とも言えないわ」
「そんな感じはしました」
「例としてああいうのが、生徒のトップだと学園はどうなると思う?」
「うーん、やっぱり周りもそうなるんじゃないかと。あの生徒会メンバーも含めて、初めて会った貴族は皆、俺を見下してきましたから」
「よく理解しているわね。そこであなたに提案よ」
唐突に投げかけられた提案。
生徒会長の話をした途端、すぐに提案を持ちかけるということは、おそらく何かしら対処でもしろってことか?
「あなたには長期休暇前に開かれる武術大会に出場してもらう。そして生徒会長ユリアナ・オブリージュに勝利するのよ」
「そんな急に! それに俺には戦う力なんかありません」
「あるでしょう。隣に」
学園長はそう言って姉ちゃんを指差した。
俺は首を横に振った。
確かに力だけ見れば、間違いなく姉ちゃんが勝っているように思える。
けど、問題はそこじゃない。
俺は単に姉ちゃんに傷ついて欲しくないだけだ。
「ふーん、だったらあなたに用はないわ。退出しなさい」
「待って! ネオ君はお姉ちゃんを心配してるだけでしょ?」
「うん……そうだよ。あの時みたいに傷ついて欲しくないから」
「ありがとう。でもね今のままじゃネオ君は弱いままだよ。強くなりたいって言ってたでしょ?」
「だけど……ケガしたら」
「お姉ちゃんはネオ君の役に立ちたい。支えたい。だからずっと側にいるの。人間の姿になってまでね」
姉ちゃんがそこまで言ってくれるなら、と俺は決意した。
現に戦う力がないのは事実。
姉ちゃんを後ろから支えることぐらいはできるはず。
俺なりのやり方で。
「はぁ……何でこうも人間は自信がないのかしら。ネオあなたは保守的過ぎるわ」
「気をつけます」
「でも一応は合格。リリスに対するその優しさに免じて。でも本当に変わった子ね。悪魔が傷つくところを見たくないなんて。この世でも一国を滅ぼしたと噂されるリリスを人の身で心配するって本当に変わってるわ、あなた」
学園長は姉ちゃんが一国を滅ぼしたのは噂だと思っているらしい。
確かに俺も姉ちゃんに聞いただけで、直接見たわけではない。それに姉ちゃんは俺に隠し事をすることはあっても、嘘をつくことはしないと思う。
それに姉ちゃんも悪魔であったとしても一人の女性だ。男が大切な女性を心配して何が悪いのか。
「そうですか? 俺はそうは思いませんけど。家族を心配するって当然じゃないですか」
「あなたの目にはリリスがどう映ってるのか気になるわ。さあ話はここまで」
話は終わり、学園長室を出た俺と姉ちゃんはこれから受ける講義の教室まで移動した。
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