7話 愛が重い

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7話 愛が重い

 やっと俺の話が終わった、そう思っていたが事実話はまだ続いていた。 「ネオにはこの学園に編入という形で入ってもらうわ。ここならある程度、保護もできると思うから」 「俺が魔王の器だっていうことは……狙ってくるのは相対関係の勇者、とかですか?」  アニメや漫画だと勇者が魔王を倒すといったストーリーは王道だからな。   「よく知ってるようね。そうよ、いずれあなた自身と器を育てたリリスを始末しにくるでしょうね。それまでにこの学園で最低限、己の身は己で守れる程度の力は付けなさい」 「無能力ですけど頑張ります」 「よろしい、どんなことがあろうと自分を悲観するのだけは決してしてはならないわ。自分はこの世界の誰よりも強者なのだと信じなさい。それがいずれ力となる。なんといってもあなたは魔王の器。ねぇ転生者君」    今、転生者って言ったよな?  まさかそのワードがここで聞けるとは。  俺の正体を知っている?  そんなわけ、ないとは言い切れないか。  魔法のように不思議な能力がある世界だ。  よくある《解析鑑定(かいせきかんてい)》みたいな能力が存在するなら、俺が転生者だと見破られてもおかしくない。 「今、確か転生者って」  「さて、二人には宿を用意して置いたからそこで休みなさい。また明日、学園に顔を出すように」  話を逸らされた、というより無視された。  どうやら深く語る気はないらしい。  でも、無能力でも自分を悲観するな、か。  それに自分はこの世界の誰よりも強者なのだと信じろとも言っていた。この言葉の深い意味は、未熟な俺にはまだわからない。  けど、取り敢えず学園長が言った通り、自分が誰よりも強者なのだと信じ続けることはできる。  どれだけ俺より上がいようと関係ない。  今は学園長が言ったことを信じ、この学園で学ぶべきことを学べばきっと無能力な俺でも強くになれる。  そう信じている。  これは決して魔王の器のためか?  自分の命を守るためか?  それは違う。  姉ちゃんを守るために俺は強くなる。  学園長との話も終わり学園の敷地に出ると、そこには大きな園庭が広がっていた。  その中央にはみんなが勉学に励む場所――第一校舎があった。  授業は主にこの場所で受けることになるらしい。  で、この園庭を抜けた先には訓練場があるとのこと。  【魔法】や【魔術】を実践的に教わり、少しずつ段階を上げたのち、卒業の際には騎士や冒険者、宮廷魔法師などの職が用意されてあるとのことだ。  まあ、稀に【錬金術】を独学で勉強し、錬金術師として人々の助けとなって活動する人もいるらしい。  でも専門分野だけあってそう簡単になれるものではなく、依頼を頼むとなると相応の金を積まなければならないそうだ。  そんなことを頭の中で整理しながら歩いていると、姉ちゃんは聞き慣れない言語で何かを呟いている。  すると頭部の角はもちろん黒翼も消えた。  服まで人っぽい物になってるし魔法ってやっぱり便利だな~。  でもこう見ると今の姉ちゃんは人間そのものの姿だ。  いつもと違う雰囲気に俺は唾を飲む。  人の姿をした姉ちゃんもそれはもう美人で清楚な感じがすごくそそられる。 「ネオ君どうかな? お姉ちゃん綺麗?」 「いや、その……すごく綺麗だよ」 「何でネオ君が照れるのよ。でも嬉しい綺麗って言ってくれて」  最近付き合い始めたカップルかよ。  この初々しい感じは何なんだ。  もう長いこと一緒に暮らしてる仲なのに、今さらこんなに緊張することあんのかよ。  ダメだ、真っ直ぐ姉ちゃんを見れない。  やっぱり正直な気持ちを伝えたからだよな。 「じゃあ、お姉ちゃんに付いてきてね」 「う、うん」  姉ちゃんの背中を追うと、学園の敷地から出てしまった。  敷地内に宿があるとは思ってなかったけど。    俺の目の前に広がっている光景――それは大通りに多くの人が行き交う様子だった。両端には露店が立ち並び、集客しようと声を上げている。  美味しそうな匂いも漂ってくるし、この世界にきて初めての都会ってこともあってわくわくする。  今まで森の中で過ごしてきたから、こんな光景はもちろん行く機会は一度もなかった。  それを体験できただけでもうお腹いっぱいだ。 「あれが宿よ、ネオ君行きましょう」  姉ちゃんに案内されたのは、夕月(ユウゲツ)という立派な宿だった。  こんな綺麗な宿、本当に泊めてもらえるのか不安にもなったが、今回は学園長の奢りだそうだ。  エントランスには酒を嗜むBARや娯楽スペースもあった。  それに端には色気ムンムンのお店が……。 「ああ~ネオ君今、あのお店見てたでしょ」 「うん。あれはどういう店?」 「確か混浴のお店ね。男の人が女の人とエッチなことしながら一緒にお風呂に入る場所。でも高いのよね。ああいうお店は」 「ふ~ん、面白そうだけど興味ないかも」 「ああいうお店に行きたいならお姉ちゃんに言ってね。お姉ちゃんとだったらお金かからないから」 「まあ、姉ちゃんより綺麗な人ってあんまいないし、逆に姉ちゃんを見慣れてるせいで他の女の人を魅力的に感じないんだよな」 「もう嬉しいこと言っちゃって! ご褒美あげちゃう」  俺の顔は姉ちゃんの柔らかくも弾力のある胸で挟まれた。それにすごくいい匂いもする。  しかしあまりエントランスでこういうことされると、公の場で不健全だと注意されかねない。  なので俺は姉ちゃんの胸から顔を離し、早く受付を済ませるよう勧めた。 「こんにちは、えっとですね。その……」  どうやら姉ちゃんは人見知りのようだ。  それに気づいた俺は姉ちゃんの代わりに受付の男と話した。 「ネオです。こっちがリリスです。学園長からお話がいってると思うのですが」 「はい、お伺いしております。どうぞ」   そして案内された部屋はベランダから海が一望できる部屋。  白を基調としたデザインはシンプルで俺好みだ。  家具も最低限の物しか置かれてないため、部屋は広々としていて俺と姉ちゃんの二人では勿体ないほどだ。  風呂や便所も完備。  まるで学園に通うためじゃなくて、バカンスにきてるだけのようにも思えてくる。 「ネオ君ごめんね。頼りないお姉ちゃんで」 「いいよ、気にしないで。姉ちゃんは人間嫌いなんだろ? 仕方ないよ」 「でも、ネオ君のことは大大大好きよ!」  以前にも増して、さらに愛が重くなっているのを感じた。だからこそ、より怖いというか、恐ろしくも感じる。  これ学園に通って女子とかと話したらどうなるんだろ?  俺、殺されたりしないかな?  そんな心配が心の中で徐々に芽生え始めたのは、まさにこの時だったのかもしれない。
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