8話 都

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8話 都

 俺にはまだ気になることがあった。  これから学園に通うなら、必ず知って置いて損はないことだ。 「あ、そうだ。姉ちゃんこの国のこと教えて」 「そうよね、急に連れてきちゃったからね。じゃあ説明するね」  姉ちゃんの話はこうだ。  これから通う学園はブロッサム魔法魔術学園。  それを運営しているのが、この国――アルズレーン王国というわけだ。  様々な思惑があるだろうが、ようは人材育成機関。  この大陸、メキドキア大陸の南東に位置する海に面した国ということもあり、漁業が盛んに行われ、経済的にも潤っているみたいだ。  軍事力も申し分ないようで、多くの若い兵士が積極的に従軍するといった不思議な現象も起きている。給金が高く、生涯生活には困らないほどだそうだ。  まあ、そういう国の学園に俺は通うってことだ。  何か将来がものすごく不安なんだが……。 「でもネオ君は心配しなくていいからね。無事卒業したらお姉ちゃんの国で雇ってあげる。人族(ヒューマン)の国なんておさらばだ~」 「確かにそれなら心配いらないな。この国の事情に巻き込まれることもなくなる。俺、もしかして将来安泰ルートに入ったのでは?」 「う~ん、安泰安泰! あ、でも王代理のセリーヌ――学園長が許してくれるかは別だよ」 「はい、安泰って希望は見えなくなりました」 「そんなに不貞しないでよ」 「してない」  そして今日はゆっくりとこの宿で休むことにした。  また明日、学園に通うためにも英気を養って置かなければ。 「姉ちゃん俺はもう寝るから」 「え!? そうなの!? まだ夕方だよ。それにご飯も食べてないし、お風呂も入ってないじゃない」 「もういいじゃん」 「ダメ! きちんとした生活を送らないと倒れちゃうよ」  姉ちゃんの「倒れちゃう」その言葉が俺の胸にズキッと刺さる。  そうだった。大学とアルバイトの両立が負担になり、きちんとした生活――所謂、生活習慣が悪かったから俺は過労死したんだった。  ここは多少面倒に感じても、姉ちゃんの言うことを聞くべきか。 「よし行こう姉ちゃん。今日は姉ちゃんのおごりだ!」 「むっ……いつもお姉ちゃんが出してるのに」 「ご飯おごるのは初めてだろ?」 「ちが~う!! 学園の授業料、ぜ~んぶお姉ちゃん負担なの。それにこれから毎日三食のご飯もお姉ちゃんが支払うことになってるの」 「だったら俺が……あ、ないや」 「知ってるよ! 知ってるからお姉ちゃんが全部出すの」 「そうか、姉ちゃんは感謝して欲しいのか。ありがとう俺の大切な大切な姉ちゃん」 「うむ、よろしい。屋台で一杯食べようね。帰りは銭湯で姉弟でいちゃいちゃ」 「銭湯、多分男女別だけどな」 「うっそだ~!」  大通りで開店している屋台で、俺は自分が食べたい物を探す。  串焼き、焼きそばに似た物、シチュー、肉を揚げた物などなど色んな食べ物が売られていた。  無難なのは串焼きだろうか?   見た感じ焼き鳥とそう大差はない。 「おっちゃん串焼き二本」 「へい毎度」  手渡された串焼きを口いっぱいに頬張った。  噛むたびに肉汁が溢れてきて、まさにこれはうまみの宝庫。食感は鶏肉に似ているけど、味は牛? 羊? でも少し生臭い感じがあるから羊に似ているのかな?  北海道のジンギスカン美味かったな~。  あれを串焼きにしたのが、まさにこれである。 「ネオ君ずる~い。お姉ちゃん、お金払ってたのに先食べちゃって」 「姉ちゃんも食べるか? はいあーん」 「あーん。うん美味しいね。うふふっ」  可愛い、こんな可愛い姉ちゃんが近くに、俺は幸せ者だなぁ。  さて、次は何を食べよう。  あそこにいい物が!  目に着いたのは、水と粉を混ぜ合わして鉄板で焼いた薄い生地に具材を乗せた食べ物。  例えば、肉や野菜。フルーツもありだな。  この世界では薄焼きと称されているみたいだが、あれはどう見てもクレープその物だ。 「お姉さん、薄焼きに果物を包んだやつ二つください」 「はい、どうぞ」  受け取った、受け取ってしまった。  これこそが至高のデザート。生地の香ばしい匂い、果肉感溢れるフルーツ、甘いクリーム。それが相まってまるで曲を奏でているようなハーモニー。  まあ、俺、音楽なんて全然知らないけど。  よくこんなこと言ってる人がいるから真似してみただけです。 「ネオ君、これ曲のハーモニーみたいだね」 「マジか……」 「うん? 何が?」 「いや何でもない」  というわけで、一通り食べ歩きを楽しんだわけだが、次に向かうのは銭湯。  でもこの世界に日本みたいな文化は存在するのか?  少し疑問に思うが、姉ちゃんが銭湯という名前を知っているならあるのか。  そして姉ちゃんの後ろを付いて歩くと、目の前に現れたのは、竹林の中にそびえ立つ一軒の建物。外装は和風らしさを意識しているのか、木造建築で白と黒を強調したデザイン、屋根は瓦、石畳のエントランス。  まるで日本の城に似通った感じだ。 「ここが銭湯か」 「じゃあ入ろう」    中に入ると、着物を着つけた女性が三人出迎えてくれた。  少し落ち着くこの感じ。  何だか日本が恋しくなってくる。 「ようこそおいでくださいました。リリス様」 「久しぶりねルル。準備は?」 「もちろんできております」 「貸切は?」 「抜かりなく」  簡単に入場できた。  それにリリス様って言ってたなあの人。 「ネオ君こっちだよ」  手を引っ張られ案内されたその場所は和室。  すでに敷布団が二枚も敷かれている。  机の上には畳まれた浴衣が用意されていた。  そんな部屋で少し寛ごうとした矢先、姉ちゃんの興奮度はマックスのようで、 「いざ、混浴に!」 「な、何で混浴。っていうかマジであんのかよ」  っで、半ば強引に俺は連れて行かれたのだった。
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