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「谷川さーん」
なんで私を呼ぶんですか? そんな爽やかな笑顔で私に声をかけないでよ。私に用事があるわけじゃないくせに。
「あ、結子ちゃん、伊藤晴哉くんが……」
私は横を向いてお弁当箱を保冷バックにしまっている、スレンダーな美少女の肩を叩いて知らせようとする。
「俺は結子じゃなくて、谷川さんに話してるの!」
こちらに話しかけてきた男子は再び私に向かって話している。
「……なんでしょう」
渋々返事をする。
自分がどんな顔してるかなんて考えたくもない。どうせ、無表情だろう。口調だってぶっきらぼうでつっけんどん。最悪だ。可愛くも面白くもない。
「今日はちゃんと昼飯食べた?」
本当はほんのちょっとだけ私に用事あるかもって、心のすっごく隅のほうで思ってた。本当にちょっとだけ。砂粒くらいの大きさの期待。
私は、落ち込んだり悩んだりすると食事があまり喉を通らなくなる。そんな時に限って、伊藤晴哉くんは私に声をかけてくるのだ。
なんで、いつもそんなタイミングでこんなこと聞くの? 優しくしないでよ。私は恋なんてしないんだから。
あなたには、他に優しくするべき人がいるでしょ? 結子ちゃんは彼氏持ちだけど、きっと伊藤晴哉くんのことが好きだよ。あなた達はきっと両想い。
だから、私に優しくしないで。
だいたい結子ちゃんも結子ちゃんだ。
付き合っている、とは聞くけど私にその人のことを話したことでしょ? 彼氏と二人でいるところも見たことないよ。
伊藤晴哉くんと言いたいことを言い合っている姿は本当に楽しそうで、羨ましい。
早く彼氏と別れて伊藤晴哉くんの彼女になってあげてよ。
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