そう思っていたはずなのに……

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「ねーねー、晴哉クン。私は今日は炊き込みご飯のおにぎり4個と卵焼きとウインナーとブロッコリーとミニトマトしか食べてなーい」 お弁当箱をしまい終った結子ちゃんが、笑顔で伊藤晴哉くんに手を差し出している。 「その気色悪い呼び方やめろよ! 谷川さん、そのおにぎりっていつものヤツだよな?」 私は思わずコクコクと何度もうなずいた。結子ちゃんのおにぎりは、1個がコンビニのものの倍以上の大きさだ。 「ほら、やっぱり! 俺は底無しの怪人には用はないの!」 伊藤晴哉くんは、結子ちゃんの手のひらをペチッと叩いて払いのけた。 「はぁ? またそれ? ねえ、実緖(みお)ちゃん、ひどいと思わない!?」 結子ちゃんは私に同意を求める。でも……ひどくないと思います。私は、そんなふうに思ったことを言い合える2人が羨ましいよ。だけど、それは言えない。 「うーん……そうだね」 「実緖ちゃん、それは肯定なの? 否定なの?」 「だからさー、谷川さんも結子のこと底無しの怪人だと思ってるんだって! 二人は体型そんなに変わらないのに、食べる量が全然違うじゃん!」 うん、確かに私も結子ちゃんのこと底無しの怪人だと思ってます。結子ちゃんは毎日の弁当の量からは想像できない、モデルのようなスタイルなのだ。 毎日、あの量のおにぎりが結子ちゃんの体内のどこへ行ってしまうのかは本当に謎。 伊藤晴哉くんは私の体型は同じくらいだと言ってくれているが、結子ちゃんは身長は160cm台で体重も50kgない。靴のサイズが24.5cmなのが一番ずるい。 顔だって、かわいい。奥二重なのにぱっちりした目にぷるんとしたさくら色の唇。伊藤晴哉くんと話している時の勝ち気な表情が魅力的。 本当はとっても優しいことは言うまでもない。私の自慢の友達なのだから。 「はぁ? 最近は小5の頃よりだいぶ食べる量減ったんですけど!?」 「うおっ。そうだった! あのときはマジでこわかった!」 「晴哉なんて豆腐の角に頭ぶつけちゃえ!」 「いーや! 食べ物は攻撃に使う前に食べるね。結子は」 ほら、やっぱり私はモブ。 仲のいい二人のショーをいつも特等席で観覧してる。 私には決してできないやり取りを見て笑ってることしかできないの。 毎日楽しくて面白くて……だから、もう見たくない。
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