そう思っていたはずなのに……

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1年間の運命が決まる、一学期の始業式の日。私は今、クラス割の張られている掲示板の前にいる。 私のものである名前『谷川(たにかわ)実緒(みお)』は3年3組のところにあった。『(つじ)結子(ゆいこ)』は探すまでもなく、真下に記されている。 そこからそーっと視線を上に滑らせていく。うん、大丈夫だ。名字の人は、今年のクラスにはいない。 よかった。幸先の良いスタートだ。1年頑張って、楽しい高校生活を送りたい。よし、頑張るぞ! そう思っていたはずなのに……。 一体この状況は何なのだ。 「結子ー! ちょっと用事ー」 「チッ、また来た。はい、実緒ちゃん行くよー」 結子ちゃんの細いのに力強い腕に、むんずと手首を掴まれた私はズルズルと廊下へ連行される。3年生になってから1ヶ月も経ってないのに、何回目? 「今日は何の教科?」 私とあの人の間に立った結子ちゃんは、片手を腰にあてて胸を張っている。相変わらずあの人の前では偉そうだ。だけど後ろ姿までかっこいい。やっぱりずるいな。 「今日は国語。谷川さん、お願いします!」 「ん……、ちょっと待ってて」 また拝まれてしまった。 だって、教科書なかったら困るもんね? 仕方ないでしょ? 私の心臓は平常運転を続けてください。何とも思っていないので。 ……あ、あのね、最初は断ったんだよ!? 『結子ちゃんに借りて』とか『他に男子の友達いっぱいいるでしょ?』とか……。 だけど『修吾(しゅうご)の手前それはできない』とか『あいつらのは、落書きがひどくて笑いを堪えるのに精一杯。そのせいで授業に身が入らないから無理』とか言われたら断りきれなくなっちゃって……。 時々、こうやって教科書を貸すハメになってしまっている。 ちなみに『シューゴ』って誰? と真剣に考えていたら答えが出た。正解は結子ちゃんの彼氏。名字なんだっけ? ま、なんでもいいや。
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