ドキドキの赤スパ荒らし

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◇◇◇ ある高級タワーマンションの一室で、クイーンサイズのソファにごろごろする男がいた。 彼は股下2メートルと思われる長い足をして、完璧なシンメトリーの顔をしている。100人が100人、神がかったイケメンと認める容姿の彼は、スマホを片手に笑った。美しい華さえも負けを認める笑みだ。 「あーネネが今日もかわいー赤スパチャが止まらなーい!!」 ソファで長い手足をバタバタさせて悶えるご尊顔が眩しい男の隣に、負けず劣らずご尊顔の黒髪男が腕を組んで立った。 「シン、その歌声配信者、ネネちゃにハマってもう1年以上になるよね。毎日毎日、よく飽きないね」 「飽きるって何?ネネと飽きるっていう単語の接点が全くない。永遠に平行なんだよタケル」 「はいはい、わかったから早く稽古してくれないかな」 腕を組んだタケルがため息をつく。何をしていなくても美貌を振りかざすシンが、スマホにニコニコ笑いかけ続ける。シンの耳が都合よく聞こえなくなるので、タケルは苦言を述べる。 「スパチャもやり過ぎるとネネちゃに嫌われるよ?配信見たことあるけど、シンの対応は周りの空気をまるで読んでないし、もはや荒らしだよ。 たぶんネネちゃは本気で怒ってるよ?お金貰えるからラッキーって媚びるタイプの反応じゃないでしょ」 タケルの常識として真っ当な意見を聞いて、シンはひょいと身体を起こしてソファに座り直した。長い足で胡坐をかくだけで絵になる男だ。シンがこてんと首を傾げると、サラサラで色素の薄い髪が揺れた。 「スパチャいっぱいしちゃなんでダメ?純粋にかわいいし大好きで嫁にしたいから応援だよ?家特定だって、素性調査だってやろうと思えばできるのに、自粛してる。モガミは法律守ってるいい子でしょ?」 「常識の範囲内ってのがあるだろう?」 「常識ナニソレ、おいしいの?」 シンは馬の耳に念仏を体現し、スマホでネネちゃんねるの昨日のライブ配信アーカイブを見直し始める。 1時間の配信をすでに3回は見た。ネネが「モガミ!もうやめなさいッ!」と怒鳴るところを特にリピートする。 「お金貰えるんだから流せばいいのに、ネネって同じ展開に毎回同じテンションで怒っちゃうからさー。チョロ可愛くてツボる」 スマホに向かってニヤつき続けるシンにタケルは深いため息をついた。にやつくシンに指示を出す。 「ハァ、シン。先にネタ練習するよ」 「ネネの配信、もう一回見てから」 「私は終わらせて早く寝たいんだよ!1時間も待ってられない!」 「はいはい……わがままだねタケルは」 「シンにだけは言われたくない」 「後でねーネネ」 スマホの中のネネにちゅっとキスしたシンは、スマホをソファにポイッと投げてから立ち上がった。シンとタケルはソファがある広いリビングから、防音を徹底した鏡張りの部屋へと移動し、二人で隣に並ぶ。 そして、目配せし合って、声を揃えた。 「「どうもーシンタケの」」 「シンの方です!」 「タケルの方です!」 「すっかりご尊顔芸人なんて呼ばれてて」 「「まあ当たり前なんですけど」」 神級イケメンの二人が並んで、ご尊顔をぶっ潰す変顔を決めてイケメンを台無しにする。ご尊顔芸人のお家芸、天から地獄へ突き落とす顔芸だ。 シンタケは夜な夜な漫才のネタの練習に励んだ。
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