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死にそうな授業
警察庁祓魔課の凶笑 姫と風獣と呪殺講義編新装版
ゼエゼエと、苦しそうな吐息が続いている。
ガクン、と頭が地面を舐めそうになり、ギリギリで保った頭が、また上がって。
「風間静也君、まだたった500回ですよ?これでようやく折り返しです」
私立狐魂堂学園祓魔科2年、同時に警察庁祓魔課所属のA級祓魔官、風間静也は死にそうになっていた。
「あの――諫早、いや勘解由小路先生、これ以上は」
流石の陰陽皇女、田所紀子(B級祓魔官)ですら、ここはドン引きするしかなかった。
「何故ですか?ただの筋力トレーニングですよ?別に死ぬ訳でもないですし」
何言ってんだお前?って顔で、妊娠後期の人妻、特A級祓魔官、勘解由小路真琴非常勤教官は言った。
黒いジャージがやたらエロい人妻だった。
「ゼエ、ゼエ、有り得ねえだろう!腕立て1000回!上体起こし1000回!それやったら懸垂1000回って!ホントに死ぬぞ筋力苛めしすぎて!」
物凄い冷徹な目で、文句を言ったライル・グリフィス・コティングリーを見下ろして真琴は言った。
「ライル君、君は永遠に腕立てを続けなさい。人妻のお尻をいやらしい目で見た罰です」
「ホントに死ぬぞ!」
「筋肉は千切れたりしません。千切れるのは気持ちか命だけです。セクハラするようなゴミが、腕立てやっていたら本当に死ぬのか、確認したかっただけです」
「フザケんな!ああ!ホントに死んじゃう!」
世紀のふざけたおっさん、勘解由小路降魔特S級祓魔官に言われるままに、その妻である真琴が、学校に来るようになって。早1週間がすぎていた。
ゴールデンウィーク?それ何て食べ物ですか?って有様の、人を人とも思わない異常な人妻の命令で、静也とライルは不眠不休で日本列島一周マラソンを、何と1周半するハメになった。
私?まあとんこつラーメン美味しかったわね。
真琴さんは15杯食べてたわね平然と。
ゴールデンウィーク最終日にやっと帰ってきて、一息吐いたら朝からこの有様だった。
「ああ、腕を立てて頭を上下させるだけの軽い動きすら失敗するようでしたら、今すぐモノクルを外すのでご安心ください」
これまあ、要するに、指導って形のジェドフシーナ、よね?
話は少し巻き戻す。
朝、黒いジャージに白の体操着を着た妊婦に、ライルは異常に興奮した。
「ヒャッホオオオオイ!イエア!あのジャージの下の尻堪んねえぜ!体操着から黒いブラジャー透けてるしよ!あああのジャージずり降ろして、生尻ミルフにしてえ!」
とか言ったライルは現在進行形で死に向かっている。
っていうか、正直それに巻き込まれただけの静也や、同じように人妻の尻をチラ見してたモブ生徒は、100回未満で既に死んでいる。
最低。モブ女子が呟く気持ちはまあ、理解出来たのだが。
でも、死にそうな静也君もステキ♡
組みひしがれて、背中に腕回したくなる♡
それは理解し兼ねるが。
あー、でも、最近静也騒がれてるわね。日本沈没を阻止したニューヒーローって体で。
でも、それはどうでもいいとして、紱魔科の授業っていのが、まだ不明確なのが問題よね。
カリキュラムがない?なら自由でいいんですね?とりあえず走ってください。命燃え尽きるまで。
目に見えるようだわ。言いかねないしこの人。
大体、1年の時もひたすら走ってたって記憶しかないし。
何か、修験道やってた職員のコネで熊野古道とか、険しい参道を上下してたし。
女子?山の上で火の上裸足で歩けって言われて、ハラスメントだって騒いだ記憶しかないけど。
あれ?ところで気が付いた。
ライルもそうだが、静也、腕立て1000回くらい、余裕よね?
中学時代、背中に乗ってたのに、普通にやってたし。
真琴さん、何かしたわね?
そこで、紀子は、霊気にピントを合わせた。
見。
あー。ライル、餓鬼の山に埋もれてる?
要するに、真琴さんの霊圧食らってる?その霊圧が、餓鬼の姿に変換されてんのね?
で、静也は?
あー、大丈夫そうだからって、登ろうとすんな。餓鬼共。
一瞬、祓おうとしたら、
「――紀子さん?」
何してんだオメエって目で見られた。
はーい。すいませーん。
済まん静也、骨は拾ってやる。
紀子は、相棒を見事に見捨てていた。
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