へばりつく愛という妄執

1/2
前へ
/24ページ
次へ

へばりつく愛という妄執

 輸送ヘリで、あっという間に祓魔課に着いてしまった。  馬手に等身大ぬいぐるみを抱き、弓手にロープを握った諫早は、縛り上げた毛唐を引き摺って歩いていた。  何だろう、霊視班のブースは忙しくしているようだった。  私達を迎えた課長、島原雪次は、目に見えて窶れているようだった。 「ああ、よく来てくれたな。諫早君、学校の方は?」 「カリキュラムが未確定で、具体的にどうしていいのか判然としなかったものですから。軽い運動を中心に、鍛えているところです」  嘘だ。屍塁々で酷い有様ですよ?この人に教師やらせちゃ駄目だと思う。  毛唐というか、ライルはまだ転がっている。 「しかも、よくお考えください。教師は基本朝から夕までのお仕事です。「ああ降魔さん♡体にいっぱいつけていただいたキシュマーキュ♡もう消えてしまいました♡おかわりが欲しいのでしゅ♡」「うん、いっぱい付けてあげたいな♡真琴のおっぱいに首筋に♡」「いやあん♡もっと付けてくだちゃい♡」」  等身大ぬいぐるみ、ラブ降魔キュン1号と、ベッタベタで1人芝居をやっていた。 「朝散々やっていただろうが!」 「ですから、もう5時間会っていない計算だと言っています」  変に譲らない妊婦の姿があった。 「とにかく、もう少し堪えてくれ。君達を呼んだのは他でもない。昨今、奇妙な事件が立て続けに起きている。この前の羅吽(らごう)ではないかと、2級霊視班を増員した編成で、羅吽の影を追っているが、今のところいい返事はない」  2級霊視班はともかく、1級霊視官がいて、見付からないとはおかしい気がしていた。  それだけではない。島原はなおも言った。 「ここのところ、奇妙な電子機器のイレギュラーが多発し、三沢のF15が消息を絶った。これはまあ、自衛隊機ということもあり、こちらは手が出せないのが現状だ。次に、桜咲会メンバーを襲う、奇妙な狙撃事件の話だ」  島原が、プロジェクターのスイッチを入れた。  ズキリ、と、私の胸が痛んだ。 「石井洋司議員だ。会議の最中、突如頭部を狙撃され、即死だった。石井議員は桜咲会メンバーとして、反対議員に対しても粘り強く交渉を続ける、信頼に厚い人物だった。清廉な議員を失ったことは、大きな痛手でもあった」  石井議員は覚えている。私の素性を知る、数少ない人物だった。  お初にお目文字いたします殿下。彼はコッソリ言っていた。  もう会えないのが、妙に寂しかった。  今はまだ私は田所姓を名乗っていて、いずれ、私の素性は明らかになる。  そうなった時、矢面に立ってくれるであろう人物を失ったのは大きい。 「勘解由小路の言では、どちらも同じ匂いがするという話だ。それは――」 「――呪詛。ですね?隣国から日々受けているという、国家的呪詛とは比べものにならない精度の。対呪詛班として、私達は呼ばれたのですね?」  島原は、少し言葉に詰まっていた。  確かに、彼女は陰陽師で、呪詛に対するカウンターとしては一級品であるのは事実だ。  だが、いいのか?彼女は、  すると、課長の背を向けたままの椅子が、くるりと回った。 「ああ。まあつまらん事件だ。魔弾の射手とグレムリン効果。この手の呪殺テロって奴は、まあ前から島原には話しといたんだがな?」  島原は、うんざりした顔をした。それは何故かというと、 「んきゃああああああああああああああああ!!降魔さん!!」  諫早先生が、突如椅子にヘビータックルをかましていた。  椅子がぶっ飛び、受け止めたのは僕悪魔(しもべあくま)だったようだが、正直潰れかけてもいた。 「もう♡お会いしたかったのでしゅ♡壊れるほど愛していましゅ降魔さん♡どのくらい伝わりましたか?」 「ああもう可愛いなあ真琴は♡お前の純情な感情は空回りしちゃってるぞ♡泣いちゃって可愛い♡あーペロペロ♡1/3どころか8万パ-セント伝わった♡ああこのお腹♡最高に可愛いぞ♡俺の真琴♡」  諫早は、泣きながら運動着のシャツを捲り上げた。黒いブラジャーが見え、胸に谷間に、おっさんの顔を押し当てた。  あ、こういう時盛りつきそうなライルは、縛り上げられて床に転がっていた。  用済みにされたラブ降魔キュン1号と共に。 「まあ、今回の件はあれだ。島原以下全員が殺される可能性があった訳だ。返り(かやり)の風を吹かせてもよかったんだが、相手が解らんので、仕方なく俺が全員の呪詛を引き受けてやることにした。ここは最高の霊的防御が敷かれた建物だが、建物出た瞬間100発ぶち込まれることになる。呪詛そのものを防ぐのは難しいが、対象を限定にして逸らすのは、そう難しいことではない。お前等は、2つの敵と戦え。転ばぬ先の杖を貸してやる。真琴♡行っておいで♡俺の可愛いメス蛇ちゃん♡いざとなったらこいつ等置いて帰っておいで♡所詮その程度の生き物達だしな♡ああそれにしても、汗が染みこんだ乳臭堪らん♡おい島原、今からここをダニンガンにする」 「だったら今すぐお前を建物の外に放り出してやる!100発撃たれて死んでしまえお前は!」  あー。馬鹿馬鹿しい。このおっさん共。  紀子はやるせない気持ちになっていた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加