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へばりつく愛という妄執
輸送ヘリで、あっという間に祓魔課に着いてしまった。
馬手に等身大ぬいぐるみを抱き、弓手にロープを握った諫早は、縛り上げた毛唐を引き摺って歩いていた。
何だろう、霊視班のブースは忙しくしているようだった。
私達を迎えた課長、島原雪次は、目に見えて窶れているようだった。
「ああ、よく来てくれたな。諫早君、学校の方は?」
「カリキュラムが未確定で、具体的にどうしていいのか判然としなかったものですから。軽い運動を中心に、鍛えているところです」
嘘だ。屍塁々で酷い有様ですよ?この人に教師やらせちゃ駄目だと思う。
毛唐というか、ライルはまだ転がっている。
「しかも、よくお考えください。教師は基本朝から夕までのお仕事です。「ああ降魔さん♡体にいっぱいつけていただいたキシュマーキュ♡もう消えてしまいました♡おかわりが欲しいのでしゅ♡」「うん、いっぱい付けてあげたいな♡真琴のおっぱいに首筋に♡」「いやあん♡もっと付けてくだちゃい♡」」
等身大ぬいぐるみ、ラブ降魔キュン1号と、ベッタベタで1人芝居をやっていた。
「朝散々やっていただろうが!」
「ですから、もう5時間会っていない計算だと言っています」
変に譲らない妊婦の姿があった。
「とにかく、もう少し堪えてくれ。君達を呼んだのは他でもない。昨今、奇妙な事件が立て続けに起きている。この前の羅吽ではないかと、2級霊視班を増員した編成で、羅吽の影を追っているが、今のところいい返事はない」
2級霊視班はともかく、1級霊視官がいて、見付からないとはおかしい気がしていた。
それだけではない。島原はなおも言った。
「ここのところ、奇妙な電子機器のイレギュラーが多発し、三沢のF15が消息を絶った。これはまあ、自衛隊機ということもあり、こちらは手が出せないのが現状だ。次に、桜咲会メンバーを襲う、奇妙な狙撃事件の話だ」
島原が、プロジェクターのスイッチを入れた。
ズキリ、と、私の胸が痛んだ。
「石井洋司議員だ。会議の最中、突如頭部を狙撃され、即死だった。石井議員は桜咲会メンバーとして、反対議員に対しても粘り強く交渉を続ける、信頼に厚い人物だった。清廉な議員を失ったことは、大きな痛手でもあった」
石井議員は覚えている。私の素性を知る、数少ない人物だった。
お初にお目文字いたします殿下。彼はコッソリ言っていた。
もう会えないのが、妙に寂しかった。
今はまだ私は田所姓を名乗っていて、いずれ、私の素性は明らかになる。
そうなった時、矢面に立ってくれるであろう人物を失ったのは大きい。
「勘解由小路の言では、どちらも同じ匂いがするという話だ。それは――」
「――呪詛。ですね?隣国から日々受けているという、国家的呪詛とは比べものにならない精度の。対呪詛班として、私達は呼ばれたのですね?」
島原は、少し言葉に詰まっていた。
確かに、彼女は陰陽師で、呪詛に対するカウンターとしては一級品であるのは事実だ。
だが、いいのか?彼女は、
すると、課長の背を向けたままの椅子が、くるりと回った。
「ああ。まあつまらん事件だ。魔弾の射手とグレムリン効果。この手の呪殺テロって奴は、まあ前から島原には話しといたんだがな?」
島原は、うんざりした顔をした。それは何故かというと、
「んきゃああああああああああああああああ!!降魔さん!!」
諫早先生が、突如椅子にヘビータックルをかましていた。
椅子がぶっ飛び、受け止めたのは僕悪魔だったようだが、正直潰れかけてもいた。
「もう♡お会いしたかったのでしゅ♡壊れるほど愛していましゅ降魔さん♡どのくらい伝わりましたか?」
「ああもう可愛いなあ真琴は♡お前の純情な感情は空回りしちゃってるぞ♡泣いちゃって可愛い♡あーペロペロ♡1/3どころか8万パ-セント伝わった♡ああこのお腹♡最高に可愛いぞ♡俺の真琴♡」
諫早は、泣きながら運動着のシャツを捲り上げた。黒いブラジャーが見え、胸に谷間に、おっさんの顔を押し当てた。
あ、こういう時盛りつきそうなライルは、縛り上げられて床に転がっていた。
用済みにされたラブ降魔キュン1号と共に。
「まあ、今回の件はあれだ。島原以下全員が殺される可能性があった訳だ。返りの風を吹かせてもよかったんだが、相手が解らんので、仕方なく俺が全員の呪詛を引き受けてやることにした。ここは最高の霊的防御が敷かれた建物だが、建物出た瞬間100発ぶち込まれることになる。呪詛そのものを防ぐのは難しいが、対象を限定にして逸らすのは、そう難しいことではない。お前等は、2つの敵と戦え。転ばぬ先の杖を貸してやる。真琴♡行っておいで♡俺の可愛いメス蛇ちゃん♡いざとなったらこいつ等置いて帰っておいで♡所詮その程度の生き物達だしな♡ああそれにしても、汗が染みこんだ乳臭堪らん♡おい島原、今からここをダニンガンにする」
「だったら今すぐお前を建物の外に放り出してやる!100発撃たれて死んでしまえお前は!」
あー。馬鹿馬鹿しい。このおっさん共。
紀子はやるせない気持ちになっていた。
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