転ばぬ先の杖

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転ばぬ先の杖

 紀子は、そのまま霊視班に顔を出した。  仲のいい霊視官、右島敬子がいた。  彼女の霊視具はダウジング。  何の手がかりもない状況で、彼女のペンダントがあれば、どんなことでも明らかになる。  30年前に行方不明になった女児の遺体を、突き止めたのだ彼女は。  彼女のペンダントが、犯人の居場所を突き止めた時、既に犯人は勘解由小路に拘束されていた。  それがきっかけで、彼女はここにいる。  もう1人、1級霊視官はいるのだが、  横にいた静也が、ブースにかかっていた音楽に気付いた。 「タンジェリンドリームだ。クラウトロックの雄だ」  その時、ペンを咥えていた男が、鋭い視線を向けた。 「お前は、どれが好きなんだ?」  静也と、男の視線が交差した。 「俺は、ガルーダが好きです」  真っ直ぐな目で、静也はそう言った。 「それは違う!ガルーダはリリースミュージックオーケストラだろう!ジャズロックだろうに!いい加減勘解由小路から卒業しろ!」  背後霊彷徨き人、遠見幽助(とおみゆうすけ)はそう言った。 「いい音楽は何十年経とうと人の心を豊かにしてくれる。勘解由小路さんの言葉です。ちなみに、タンジェリンドリームはリコシェまででしょう。息の長いグループは、マイナーチェンジに失敗すると途端に萎える。レジェンドでしたっけ?歌とかタンジェリンドリームには要らないというのに。今かかっているフェードラはいい。心が深部まで沈んでいくようだ。やっぱりクラウトロックも初期がいいに決まっている。多分、勘解由小路さんはCD持ってます。ガルーダも勿論」  その言葉に、右島啓子が異議を唱えた。 「私達は、迷惑してるんですよ?70年代の妙な音楽聴かされて」 「馬鹿な!精神集中にクラウトロックがいいと、論文にもあっただろうが!今更エゴラッピンなど聴いていられるか!」  はあ?諫早が言った。 「エゴラッピンはマイフェイバリットなのですが、何か?」  攻撃的な霊圧を受けて、遠見は途端に萎縮していた。 「ま、まあいいじゃないか。俺の霊視は茉莉がいなければ始まらん。茉莉、俺達が求める場所はどこだ?」  遠見幽助に取り憑いた背後霊、茉莉は静也に露骨に反応していた。 「痛い?!茉莉お前?!」  遠見の頭を叩いた茉莉は、ギャハハと声を出さずに笑っていた。  茉莉は、そこにあった雑記帳を掴んでいた。 「ギャハハ!祓魔課バーカバーカ!ウゼえボアああああ!」 「これは?」 「まあ。茉莉の馬鹿の台詞だ。あいつは通常喋れんのであいた!茉莉!祓魔するぞしまいに!」 「あああ。茉莉さん?何か見えました?」 「紀子ぼああああああああ!ペチャパイぼあああああああ!」  茉莉はKiss顔していた。  ああ解った。喧嘩売ってんだなお前?! 「紀子、符をしまえ。茉莉さん、何か知りませんか?」 「うきゃああああああ!静也キュンふおおおおおう!今度デートしよ?!執事服着て!」  茉莉は、妙に興奮していた。 「私が見たポイントはこの辺?!」  茉莉がバンバン指差すのは、港区のタワーマンションだった。 「私のダウジングが示したのは、港区のタワーマンションです。余計な情報は予断を呼びますので」  右島啓子が示したのも、港区のタワーマンションだった。  予断のない状況で、2人の霊視官が見た光景は、共に1つ。答えは出ていた。 「遠見さんは、私達に同行を願います。右島さんは、バックアップをお願いします。行きましょう」  勘解由小路真琴、特A級祓魔官、動く。  紀子は、息を大きく吸った。    ロビーの前で、紀子は魔除けを静也に施した。 「具体的に、どんな呪詛か解らないから、当てずっぽうでいい?」  続いて、真琴に魔除けを施そうとしたのだが、どうにも居心地が悪そうだった。  当然か、蛇に蛇除けをかけるようなものか。刺激物的な。 「私は結構です。行く前に、降魔さんがラブ降魔キュン1号にキスしてました♡これがあれば、何も怖くはありません♡」  幸せいっぱいでロビーを出た瞬間、  ズガン!ズキュンズキュンズキュンズキュン!  ラブ降魔キュン1号とやらが、忽ちハチの巣にされていた。 「い、嫌ああああああああああああああああ!!私の降魔さんがあああああああああああああああああああああ!!」  まあ、人形って、当然そうなるわよね?  おっさんは、正しい使い方しただけで。 「もう少し、強いのかけとく」 「――ああ、頼む」  静也は手向かいしなかった。
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