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親コヤンイバードはパニックを起こしている様子で、足元に自分の子どもがいるにも関わらず、羽と鋭い爪がついた後ろ足をバタつかせている。
羽の風圧により、コロコロと転がるように子ども達が飛ばされた。
助けてやりたい気持ちはあったが、下手に手を出すと、あの鋭い爪の餌食になりかねない。
フルウは出ていきたい気持ちをグッと堪えた。
「ナ――ア――――!」
親コヤンイバードは一層大きな鳴き声を上げた。
もどかしい自分の体に活を入れるようにして、大きく羽ばたく。
そして上空を旋回すると、そのまま遠くまで飛んでいってしまった。
「えっ…! 待って…子ども達が…」
地上ではまだ飛べない子ども達が、切なそうに鳴いている。母を呼ぶ小さなその声は届かなかったようだ。
『…恐らく同じ場所には戻って来ない。この住処は危険だと判断しただろうな。子どもも…人間の匂いが付いた…』
「あ……そうか…。そうですよね…」
子ども達から寄って来たとはいえ、その体に触れてしまった事をフルウは後悔した。
人間の匂いが付いた子どもは、育児放棄されたのだ。
だが例え触れていなかったにしろ、まだ飛べぬ子を連れて、この状況下一緒に飛び立つ事はなかっただろう。
母親を呼ぶ声は、次第に濁音が混ざったような鳴き方に変わった。必死さが伝わるその声に、フルウの心は悲しく震えた。
***
残された「ちびコヤンイバード」は保護され、フルウ達の寮の一角に一旦、身を置くことになった。
ちょっとした野菜を育てている小さめのビニルハウスに寝床を用意し、そこに子ども達を放した。
最初は3体とも寂しさと恐怖からか、ブルブルと震えが止まらなかったが、ふわふわの毛布に包んで抱っこしてやると、しばらくして猫のような小さな前足でふみふみと毛布を揉み出した。
「…ママを思い出しているのかい? ごめんな…もう会えないんだ…」
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