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「うわっ!」
唐突に、身体の中央から脳髄へと激痛が走って、良太郎は女児の上で身をのけぞらせた。
女児がいきなり左膝を振り上げ、己の股間を鋭く蹴ったのだ、と気付いた次の瞬間、またも良太郎は同じ部位に強烈な一撃を喰らう。その女児らしからぬ力強い蹴りに驚きつつ、良太郎は身体を河原に転がし悶絶した。すぐに立ち上がれぬほどの痛みが脳をかき乱す。それと同時に、どす黒い憤怒が心中で渦を巻いた。良太郎はのたうちまわりながらも、らんらんと瞳を怒らせて、女児を渾身の力で睨み付ける。
しかし、良太郎は女児にその怒りをぶつけることは叶わなかった。なおも転がる良太郎に構うことなく、女児がすっ、と半身を起こしたのだ。そして、乱れたままの着物の裾はそのままに、近くにあった大きな石にに手を添えながら、ゆっくりとした動作で立ち上がる。
その所作は、どこかぎごちない。
良太郎には、まるで、転がるしかない自分を嘲笑っているのではないかと疑いたくなるほど、勿体ぶった仕草に思えた。それがまた、良太郎のはらわたを煮えくりかえさせる。
だが結局、良太郎が立ち上がる前に、女児は石に縋りながら地に足を揃えると、またもゆっくりとした動きでその場を立ち去っていった。
良太郎の視界からそろり、そろりと女児の背が消えていく。
河原を歩く女児の足取りは最後までどことなく不自然だった。
それが、右足をわずかに引きずる所作のせいだと気づいたのは、女児の姿が完全に堤の向こうに失せてからだった。
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