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そんな良太郎の思考を妨げるように降ってきたのは、健三の言葉だ。彼は己が痛めつけたばかりの少年を忌々しげに見据えながら、語を放つ。
「だったら、このくらいで許してやるわけはいかんよ。お前はもう俺の娘であり、まだ九才とはいえ、この小野寺家の立派な女だ。それをたかが使用人の息子に好きにされたとなっては、なによりも俺の怒りが収まらん。それに俺は、こいつの目つきが前から気に入らなかったんだ」
そして健三は良太郎に怒りの唾を吐いた。
「この、恩知らずが……誰のおかげで高等小学校にまで行かせてもらえたと思っている!」
「……恩……」
良太郎はちいさく語を零した。
ついで、眉がぴくり、と跳ね上がり、鋭い眼差しが健三を捉える。
そうして数瞬ののち、長らく幼い心に沈めていた憤りがついに爆ぜた。
「あんただって……」
「なに?」
「あんただって、母さんに同じようなことしたじゃないか!」
瞬間、健三の顔色がさらに赤く上気する。そうとなってしまえば、良太郎の頬を彼の平手打ちが再度見舞うのは当然の成り行きだった。
「生意気言うな! 何様のつもりだ!」
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