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――女とは、よわい生き物なんだな。母さん、まるで犬みたいに四つん這いにさせられて、あんなにも嫌そうな声を上げていたのに、逃げもしなかったし、なんなら、僕にあの男へ謝らせようとする。めそめそと泣きさえする。そうだ、女はよわい。それに対して――。
そこまで考えたとき、男の身体がゆらりと前のめりに蠢いた。そうして、太い腕が、良太郎の首元にいきなり伸び、次の瞬間にはシャツの襟を、ぐいと掴んで引き寄せる。抗いようのない力で。
だから良太郎は、次にはこう考えたのだった。ごくごく流れるように自然に。
――対して、男は、つよい。
おとなはつよい。
おとなの男は、いちばんつよい。
おとなでも女は、よわい。
男でも子どもは、よわい――。
そのとき、その思考は、ぱっきりと梨を刃物でまっぷたつに割ったときの様な、鮮やかさとわかりやすさで、良太郎の脳髄に染みこんだのだった。割れた果肉から滴り落ちる果汁のように、じわじわと。
そして、みずみずしいほどに、甘美に。
「いい目つきだ。良太郎、その目を忘れるなよ」
すぐ目前で、なおも良太郎のシャツを鷲掴みにした男が、にやり、と笑った。それから男はゆっくり襟から手を離すと、ポケットを探りながら一本の梨の木に歩み寄る。
ざくり、と音がした。男がポケットから取り出したナイフを枝に差し伸べるや、白い袋を被った果実をひとつ、無造作にもぎ取ったのだ。そしてなんの躊躇いも見せぬ所作で、男は手中の梨の袋をびりびりと破り捨て、地面へと放り投げる。そして、姿を現したまんまるの大きな梨の皮を、慣れた手つきで剥く。
みるみるうちに梨は艶やかな中身を露わにした。
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