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そんなわけで、どうすればこの女児の緊張が解けるような笑顔を作れるか、良太郎にはわからない。なので彼は、せめてものの心遣いと、齢十三にしては高い背を折り曲げて、目線を女児の顔の高さまで下ろす。
「見たことない女だなぁ、この村では」
腰を屈めたものだから、これまでよりもよりはっきり、女児の顔が目に飛び込んできた。良太郎はその風貌を見て、ほう、と思わず息をつく。
――えらく、整った顔立ちだな。鼻筋はすっと伸びやかだし、目は切れ長ながらも、くっきりとした黒目が目を引く。こりゃ、大人になったらえらい美人になるんじゃないだろうか。
良太郎は女児の顔をしげしげと見つめる。すると、その視線に恐怖を感じたのか、女児が今度は肩をびくっ、と震わせた。そして、なにも口にせぬまま、良太郎に背を向けようとする。
その挙動は、精一杯気を遣ったつもりの良太郎の癪に障るものだった。
「おい! 無視するなよ!」
かちんときた良太郎は思わず女児の着物の袖を掴む。途端に絣模様の綿の生地がはらり、と捲れ、細い腕が露わになった。
その腕は、皮を剥いた梨を思い起こさせる白さだった。
良太郎は咄嗟にこみ上げた唾を飲み込む。喉が鳴る。艶やかな黒髪を見た後の目には、果肉のようになめらかな肌がやけに眩しく映った。
そのとき。
どくん。
心の臓の奥で、見知らぬ衝動が脈打った。良太郎の体内で、抗い難い欲望が疼いた。
どくん、どくん。どくん。
そして、あの日以来、幼い脳内で幾度も繰り返した呪文が、不意に心中に甦る。
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