第一話 昭和七年「邂逅と衝動」

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 ――ああ、そうだ。あれもこんな陽の眩しい日のことだったではないだろうか。もっとも、あれは夏のことだけれど。    男は、つよい。  おとなはつよい。  おとなの男は、いちばんつよい。  おとなでも女は、よわい。  男でも子どもは、よわい。  ――では。  ――では、女の子どもは、どうなのか――?  次の瞬間、良太郎は衝動のままに女児のちいさな身体を河原に倒していた。声も上げずに、女児が石ころの上にあっさりと転がる。まるで人形を転がすような容易さだな、と良太郎は意識の向こう側で思った。  女児の長い髪がばさ、と小石に絡んで散らばった。続いて、乱れた黒髪の隙間から、切れ長の黒い目が覗く。その双眼はまっすぐに、自分の上にのしかかった良太郎の顔を凝視している。ふたりの視線が絡み合う。  河原に座り込んだ良太郎は自分のしていることを一瞬忘れて、背筋をぞわり、とさせた。  女児の瞳は感情というものを感じさせない静謐さに満ちていた。そこからは抗議や恥辱の色は見えない。ただ、静かに、良太郎の顔を舐めるように見つめていた。  ――まるで、暗い水の底に、見る者を引きずり込むような目を、してる。  川の水の音が遠くに聞こえる。
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