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――ああ、そうだ。あれもこんな陽の眩しい日のことだったではないだろうか。もっとも、あれは夏のことだけれど。
男は、つよい。
おとなはつよい。
おとなの男は、いちばんつよい。
おとなでも女は、よわい。
男でも子どもは、よわい。
――では。
――では、女の子どもは、どうなのか――?
次の瞬間、良太郎は衝動のままに女児のちいさな身体を河原に倒していた。声も上げずに、女児が石ころの上にあっさりと転がる。まるで人形を転がすような容易さだな、と良太郎は意識の向こう側で思った。
女児の長い髪がばさ、と小石に絡んで散らばった。続いて、乱れた黒髪の隙間から、切れ長の黒い目が覗く。その双眼はまっすぐに、自分の上にのしかかった良太郎の顔を凝視している。ふたりの視線が絡み合う。
河原に座り込んだ良太郎は自分のしていることを一瞬忘れて、背筋をぞわり、とさせた。
女児の瞳は感情というものを感じさせない静謐さに満ちていた。そこからは抗議や恥辱の色は見えない。ただ、静かに、良太郎の顔を舐めるように見つめていた。
――まるで、暗い水の底に、見る者を引きずり込むような目を、してる。
川の水の音が遠くに聞こえる。
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