A子

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 確かにさっき見た時は、扉と壁の間には誰もいなかったはずです。  ですが、今回はそこにいました・・  そこに立っていたのは、一人の女性です。  俯いていた顔がスッと上げられると、  薄ぼんやりした空間に浮かんだ顔は・・「A子」でした。  見たこともない人ですが、なぜかそれがA子だと分かりました。  ああ、今更のように気づきました。  さっき、ドアを押しても壁に付かなかったのは、ドアと壁の間に彼女が立っていたせいだったのです。  A子はずっとこの部屋にいたのです。  おそらくA子はもうこの世にはいないのでしょう。おそらく自分の想う人が自殺し、彼女はその後を追ったのだと思います。  私の所に現れたのは強い嫉妬心からでしょうか。  人はどこで恨みを買うか分からない。誰かがそう言っていたのを思い出しました。  A子は私と目が合うと、ニヤリと笑いました。 「ふふふふ」  余りの恐怖に悪寒がピークに達した私は、闇の中に引き摺り込まれるような感覚に陥りました。  戦慄悪寒の痙攣が止まらなくなり、信じられないほど体がビクンビクンと痙攣を繰り返しています。  夫が帰ってくるまで、この体はもたない・・そう思いました。 「戦慄悪寒」・・特に原因がなく起こる場合、  ある人は、「それは霊界の誘いの予兆だ」と言っていました。  その言葉を思い出した時は、もう遅過ぎました。  私が最期に見た、そして最期に聞いたのは、A子がゆっくり近づいてくる姿、  そして、  暗い廊下の中に響き渡るペタペタというA子の足音です。  心臓が太鼓を打つように高ぶり、その動きが限界に達しました。                               (了)
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