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夜空が瞬いている。
月は雲に隠れ、夜の光と影が同居する夜空の下、二人は駆けていた。
「に、逃げてしまったわ…。
ど、どうしよう…。」
「今、屋敷の中に隠れたら、間違いなく当主に殺される。…このまま外に出る。」
「帳…良いの?」
暗闇の中、一瞬交差した瞳は、既に覚悟が出来ているように見えた。
「ああ…。あんたさえ隣に居るなら、きっと私はどこにでも歩いて行ける気がする。」
「言葉のあやでもあるけれど、帳がそう言うなら、私もわかったわ。
…元々、覚悟はしてたもの。」
帳と茜は手を引いて、駆けていた。
しかし帳が向かっていたのは入口ではなく、反対側だった。
「帳、こっちは反対なんじゃ…」
「入り口は厳重だと、前に行っただろう。
前に散策した時、裏側は山になっていた。
そっちから行った方が、確実に見つかりにくいはずだ。」
「わかった。
今はあなたを信じるしかないわね。」
茜が言うと、帳は小さく微笑んだ。
裏側の方がセキュリティが緩いというのは事実なようで、やがて人にも見つからず、二人は塀を越えた。
木々に囲まれた深い山の中を、二人は急ぎながらもゆっくりと歩き始めた。
茜と帳が塀を越える少し前に遡る。
輝明は二人が逃げた先を睨み、凍えるような威圧感を放っていた。
玩具をネズミに掠め取られた輝明は、重苦しいまでの殺気を滲ませていた。
そんな時、輝明の前に現れる人物がいた。
「父さん、今、良いですか?」
旭だった。
唐突に旭が現れ、輝明は不快そうな眼差しを送る。
「私は今、忙しい。
大した用でないなら失せろ。」
「俺の要件を無視しても良いのですか?
…たとえ、帳の行き先がわかるとしても?」
旭は得体が知れない微笑みを見せた。
こういう時の旭は、輝明ですら真意が読めない時があった。
「…ほう、話してみろ。
話ぐらいは聞いてやる。」
「俺に任せてくれたとしたら、すぐに見つけます。
代わりに、交渉したい事もありまして。」
「交渉なら奴を生け捕りにしてからだ。
ただし小娘の方は殺す。」
そこで旭は、一際穏やかな笑顔を浮かべ、口を開く。
「…それに関して、俺の方で良い案が浮かんだので、賭けてみませんか?
きっと、父さんも気に入るはずです。」
旭の語りかける口調に、輝明は微かに目を細めた。
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