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久我家
人里離れた田舎の村。
自然に溢れる場所なのに、どうしてこうも息苦しいのだろう。
「まあ、あの人がよそから来た…。」
「ええ、久我家の方々の遠縁のご親戚なんですって。」
「あら、そうなの~。」
誰にも言っていない自分の事を、赤の他人に語られる気分はあまり良くない。
成瀬茜は家族を亡くし、遠縁の親戚に引き取られる事になった。
母は幼い頃に病で亡くなり、唯一の肉親だった父は最近、事故で命を落とした。
行くところもなく困っていた時だった。
高校生で一人暮らしをするくらいなら、いっそ我が家に来てはどうか。
という連絡を受けた。
茜は喜んで飛び付いた。
しかしそこは、想像していた以上のド田舎だった。
電車やバスはほとんど無い。
店もコンビニもひたすら遠い。
並ぶ家の距離感は遠いのに、噂話は初対面の頃から既に始まっている。
遠縁の親戚と言っても、ほとんど会ったこともないような人達。
今になって不安な気持ちになってきた。
「私はやれる…やれるわ。頑張るのよ、茜…。」
茜は独り言を呟いてから、噂話をする主婦達に、笑顔を向けた。
「こんにちは初めまして!
今日から久我家でお世話になります、成瀬茜です。
これからよろしくお願いします!」
元気に挨拶をすると主婦達が嬉しそうに近寄ってくる。
「あらあら、礼儀正しいお嬢さんね。
遠くから来て大変だと思うけど、何かあったら私たちを頼ってね。」
「うふふ、そうよ~。
遠慮なんていらないんだから。
それでどうして久我家に?」
「最近、家族を亡くして身寄りがなくて困っていたところを、連絡頂いたんです。」
一気に同情じみた目線を向けられる。
「そうなのね~。
久我家は、村一帯を治める地主の家系で、昔からある由緒正しい家柄だから。
これから大変になるわねぇ。」
「そ、そうなんですか…?」
「あら、知らなかったの?
それと久我家には鬼がいるから、くれぐれも気を付けるのよ~?」
「鬼…?」
茜は『鬼』という単語が気になった。
しかし主婦達の話題はすぐに移っていった。
しばらく話してから、茜はお辞儀する。
「色々と教えていただき、ありがとうございました。
私、そろそろ行かないと行けないので…。」
「可愛らしい子が来て、私たちも嬉しいわ~。」
「これからよろしくね~。」
主婦と別れる。
茜はまっすぐに続いた田舎道を歩くが、いくつかの疑問だけが残った。
お世話になる久我家は、古くからある由緒正しい家らしい。
初めて聞いた。
『鬼』とは何なのか。
少なくとも今は、『鬼』が平然と存在するような世の中ではない。
茜は不安感を抱えながら、久我家まで向かった。
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