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「ここが久我家…。」
高い塀の向こうには、立派な日本家屋が佇む。
入る前から、荘厳な雰囲気が伝わってくる。
チリチリと緊張感が走る。
茜は大きな息を吐いてから、呼び鈴を鳴らす。
しばらくしてから現れる人影。
「こんにちは、成瀬茜さんですか?」
現れたのは恐ろしく綺麗な人だった。
上品で端整な顔立ち。
柔和そうで物腰の柔らかい雰囲気。
高い背丈、息を飲むほど美しい青年。
年齢は、茜とあまり変わらないかもしれない。高校生くらいか。
一瞬、魅とれそうになって、茜は我に返る。
「あ、はい。あの…どうして私の名前を?
あなたとはお会いした事、ないですよね…?」
青年は少し悲しそうな表情を見せた。
「実は昔、一度だけ会ったことあるんですよ。
君とは遠縁の親戚に当たるので、その時にね。
まあ、君は小さすぎて、ほとんど覚えていないだろうけど。」
一度だけ、それらしき少年と会ったような気がしないでもない。
申し訳ないが覚えてなかった。
「そう、だったんですか…。
すいません、覚えてなくて。
でもそれだけで、私のことを覚えていて連絡をくれたんですか?」
「俺の意向で。と言いたいところだけど、実は君を呼び寄せたのは俺の父なんだ。」
茜は首を傾げる。
青年は家の門を見やった。
「歩きながら話そうか。
それと…ご挨拶が遅れました。
俺は久我旭。
この一帯の村をとり纏める久我家の当主、久我輝明の息子なんだ。
堅苦しいのは嫌いだから、敬語はいらないよ。」
旭は、名前に似合う柔らかな笑顔を見せた。
「わかった。
でも、最初は挨拶が肝心だから。
…改めて、成瀬茜です。
これから、この家でお世話になります。」
茜は旭に屋敷の中を案内された。
家の中も立派だった。
渡り廊下からは雅で風情のある庭が見える。
屋敷の中の庭は広い。
木々に紛れた奥の方には、離れまである。
正直、圧倒されて住む世界が違うと、茜は悟る。
妙に旭が上品なわけだ。
本当に良い家柄の子息なのだろう。
なぜ茜にこんな遠縁の親戚がいたのか。
今までなにも知らなかったのが、不思議でたまらなかった。
「茜ちゃん、緊張してる?」
すっと自然に顔を覗き込まれた。
旭の距離感の近さに、背中がのけ反った。
出来の良い人形のような綺麗な顔は、いちいち心臓に悪い。
「え、ええ、もちろん。
だって初めてよ。
こんなに立派なお屋敷を見たのなんて。」
「君が思うほど、大層なものでもないよ。
ここは。」
お坊っちゃんの感覚は可笑しいのだろうか。
「へ、へえぇ~…。
普通の家ならこれだけ立派な庭も、あと…あんな離れもないわ。」
茜が離れに目を向ける。
旭がそれを遮って言った。
「まずはこの家の当主に挨拶をしに行こうか。」
「う、うん?わかった…。」
微かな違和感はあったが、それもこの目眩がするほど立派な屋敷のせいだろう。
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