久我家

1/5
67人が本棚に入れています
本棚に追加
/98ページ

久我家

 人里離れた田舎の村。 自然に溢れる場所なのに、どうしてこうも息苦しいのだろう。  「まあ、あの人がよそから来た…。」  「ええ、久我(くが)家の方々の遠縁のご親戚なんですって。」  「あら、そうなの~。」  誰にも言っていない自分の事を、赤の他人に語られる気分はあまり良くない。  成瀬茜(なるせあかね)は家族を亡くし、遠縁の親戚に引き取られる事になった。 母は幼い頃に病で亡くなり、唯一の肉親だった父は最近、事故で命を落とした。  行くところもなく困っていた時だった。 高校生で一人暮らしをするくらいなら、いっそ我が家に来てはどうか。 という連絡を受けた。  茜は喜んで飛び付いた。  しかしそこは、想像していた以上のド田舎だった。  電車やバスはほとんど無い。 店もコンビニもひたすら遠い。 並ぶ家の距離感は遠いのに、噂話は初対面の頃から既に始まっている。  遠縁の親戚と言っても、ほとんど会ったこともないような人達。 今になって不安な気持ちになってきた。  「私はやれる…やれるわ。頑張るのよ、茜…。」  茜は独り言を(つぶや)いてから、噂話をする主婦達に、笑顔を向けた。  「こんにちは初めまして!  今日から久我家でお世話になります、成瀬茜です。 これからよろしくお願いします!」  元気に挨拶をすると主婦達が嬉しそうに近寄ってくる。  「あらあら、礼儀正しいお嬢さんね。 遠くから来て大変だと思うけど、何かあったら私たちを頼ってね。」  「うふふ、そうよ~。 遠慮なんていらないんだから。 それでどうして久我家に?」  「最近、家族を亡くして身寄りがなくて困っていたところを、連絡頂いたんです。」 一気に同情じみた目線を向けられる。  「そうなのね~。  久我家は、村一帯を治める地主の家系で、昔からある由緒正しい家柄だから。 これから大変になるわねぇ。」  「そ、そうなんですか…?」  「あら、知らなかったの? それと久我家には鬼がいるから、くれぐれも気を付けるのよ~?」  「鬼…?」  茜は『鬼』という単語が気になった。  しかし主婦達の話題はすぐに移っていった。 しばらく話してから、茜はお辞儀する。  「色々と教えていただき、ありがとうございました。  私、そろそろ行かないと行けないので…。」  「可愛らしい子が来て、私たちも嬉しいわ~。」  「これからよろしくね~。」  主婦と別れる。  茜はまっすぐに続いた田舎道を歩くが、いくつかの疑問だけが残った。  お世話になる久我(くが)家は、古くからある由緒正しい家らしい。 初めて聞いた。 『鬼』とは何なのか。  少なくとも今は、『鬼』が平然と存在するような世の中ではない。  茜は不安感を抱えながら、久我(くが)家まで向かった。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!