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虹彩と網膜パターンのチェックを終え、第三の扉が開く。ここからはジイさんの情報網でも確認出来なかった未知の領域だ。まあ、大体予想はついちゃいるが。
「帰ってきたよ、ママ」
舌足らずな声をことさらに演出して、俺は足を踏み入れた。
暖炉の前でレース編みに精を出している太った中年女。レイモンドがどうしようもないマザコンだってことは、とっくの昔に調査済みだ。
「どこへ行ってたの?」
揺り椅子の動きを止め、女は不機嫌に口を開いた。
「言うことを聞かない子は嫌いだって、ママ言ったでしょう?」
これが俺の実の母親かと思うと、有り難くてヘドが出る。嫌悪感を捻じ伏せ、俺は媚びるような笑みを作った。もう少しの辛抱だ。いざとなればこんなバアさん一人、どうにでも始末出来る。
「ごめんね、ママ。でも……」
「そう、まあいいわ。代わりは用意してあるから」
代わり?
ババアが手を叩き、奥の扉が開く。銃を構えた人影に、俺はレイモンド譲りの目を見開いた。
レイモンドだ。
戸惑いを隠せないまま、まじまじと自分の掌を見つめる。馬鹿な、奴は俺が確かにこの手で──
直後、俺は答えを悟った。自嘲を含んだ笑いが、喉から溢れ出す。偶然ではなかったのだ。いや、双子ですらなかった。
二人目のレイモンドが──クローンが、続けて姿を現す。三人、四人。見事に歩調を揃えた足並みは、統制された軍隊を思わせた。まったく、医学の進歩って奴は……自分の置かれた状況も忘れ、俺は笑い続けた。
「片付けてちょうだい、レイモンド」
銃のレーザーが、一斉に俺を貫いた。
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