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臙脂色の絨毯を遮って、銀色の扉が立ち塞がる。しかし掌を押し当てると、あっけなく開いた。館のシステムが、俺をレイモンドと認識したのだ。
まさか双子だからと言って、指紋まで同じ訳がない。拒絶反応が起こらないのをいいことに、ジイさんはレイモンドの部品を俺に嵌め込んだのだ。まったく、医学の進歩って奴は恐ろしい。
何もそこまで、という奴もいるだろう。別に自分の境遇を嘆く訳でも、オフクロのオッパイが恋しい訳でもない。だが札束に恋い焦がれない奴がどこにいる?
『オ帰リナサイマセ、れいもんど様』
次の関門の前で、注意深く息を吐き出す。
声帯を取り替えただけではシステムは騙せない。リズム、発音、抑揚。識別用のプログラムをポイントごとに解析し、全てをクリア出来るよう発声練習を繰り返す。何度も、何度も、何度も──
「ただいま」
扉は開いた。
館とは別の映像が、一瞬脳裏に浮かんで消える。繰り返し繰り返し、大富豪のサインの練習を続ける若い男。ジイさんがよく見ていた、前世紀の映画のワンシーン──最後には失敗する話のどこがいいのかと、俺は笑ったものだ。そう、俺は奴のようなヘマはしない。
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