いっぱい

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「レイモンド様!」  テラスを拭いていたメイドが、弾かれたように頭を下げる。この御時世、家事ロボットでも入れた方が遥かに安くつくだろうが、そこが金持ちの見栄って奴だ。 「お帰りなさいませ、レイモンド様」  脳にインプットしたデータの中から、女の顔を探り出す。メアリー、そう、メアリーだ。 「大丈夫ですか?」  立ち止まった俺の顔を、女が不安げに覗き込む。窮屈そうな紺色の衣装の下で、胸だけがアンバランスな色気を放っていた。 「ああ、まだちょっと頭が痛んでね」 「三箇月も入院なさってたんですもの。お大事になさってくださいね」 「ありがとう、メアリー」  服の下のデータ収集を諦め、俺は屋敷の中へと進んだ。お楽しみは全てを手に入れてからでも遅くはない。  大理石の階段を上がり、廊下を左へ折れる。交通事故から蘇った御曹司のご帰還にしちゃ、嫌に地味な出迎えだ。もっとも、当の本人は三箇月前に野良犬のエサになってるが。
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