2人が本棚に入れています
本棚に追加
内陸線と金平糖
「意外と混んでた。どっち乗る?」
失礼にも「どうせスカスカだろう」と思っていた私は、息子の乗りたい1両目に乗ったものの空席がなく、2両目に移るか悩んだ。
「ママあっちで座ってていいよ」
「あんたどうすんの?」
「先頭で見てる」
7歳の息子が果たして大人しく見ているかは甚だ疑問だが、そこそこ”鉄分”の高い息子。まあ大丈夫かもしれない。
とりあえず様子は見つつ、私は2両目に移った。
こちらはボックス席も空いていた。
座ろう。
私は疲れているのだ。
車窓の景色は心躍るものがあるけど、角館で歩き回った私はとりあえず休みたかった。
ぼんやり外を眺める。
流れる景色は初秋の風吹く、稲刈りの終わった田んぼ。
もう家々の窓や庭木には雪対策もされ、冬の近さを感じる。
ちょっと寂しい。
秋田の冬、景色がグレーなんだよな。
時々息子を覗くと、先頭の窓に微動だにせず張り付いている。
うん、多分大丈夫。
そう思ってまた席に戻ると、しばらくして「ママー」と息子が戻って来た。
「なに? お菓子?」
「うん、さっきの綺麗な飴食べる」
「金平糖だよ」
「こんぺいとう」
角館で買ったお土産から、駄菓子の包みを取り出すと中から小瓶に入った黄色い金平糖を出した。
「全部出して」
「全部食うの?」
「並べるの」
息子は黄色、ピンク、水色の金平糖がそれぞれ入った小瓶を車窓に並べる。
紅葉の山々を背景に、これはこれで可愛いかもしれない。
とりあえず写真。
「ぼく黄色食べる。ピンクはママ、水色はパパ」
「食べていいの?」
「うん」
「じゃあ後程いただきます」
車窓から黄色の小瓶が消え、しばらくして透明の小瓶が戻った。
「ママ、後ろの車両なに?」
「あっち? さっき縄文回送するって言ってたじゃん」
「あー、あれか! 見る」
「ママも見よ」
3両目に連結された縄文号は回送。
当然誰も乗っていない。
「いつか乗りたいね」
「うん!」
それから息子はまた先頭に戻り、私は席に戻った。
短いトンネルをいくつか抜け、アナウンスが聞こえた。
絶好の映えスポット、高所の鉄橋から見る川と紅葉。
近頃は”映え”とも言わないようだけど、いいの。私はおばさんだし。
絶景のはずなのに、川の真ん中に大型クレーンがある。
工事中?
でもそれはそれで面白い。
私のスマホの画面に写るのは、足元の錆びた鉄骨と、列車の影が落ちる川、そして真ん中に堂々と佇むクレーン…からのクレーンと似た色をした背景の木々。
嫌いじゃない。
この鉄と自然の融合した感じ。
最初のコメントを投稿しよう!