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(岸さんに見透かされてしまったか……オレとしたことが、つい油断した)  絵になるような美形が並んでいる様子にすっかり目を奪われ、完全に思考が停止していた。  あんなにガン見していては、男好きだと悟られても不思議ではない。  学生時代はその所為で苦々しい思いも味わったというのに、なんという失態だ。  自分を戒めるように、尾上は強く拳を握った。 (……大丈夫だ。たとえオレの性癖が見透かされたとしても、きっとここでは誰もオレの事を気持ち悪いだなんて言わない)  だってここは、BL編集部だ。  今までは敢えて鬼門だと避けていたが、考え方を変えれば、尾上にとってここは居心地の良い場所に成りえると、そう思うようにしたではないか!  そう再び自己暗示を掛けていたら、やっと気持ちが落ち着いた。  ふぅと一つ深呼吸し、中河が用意してくれた席へ腰を下ろす。  すると、ちょうどそのタイミングで甲斐が出勤したらしく「よぉ!」と編集部の入り口の方から声が上がった。 「昨日は雨に当たったが、大丈夫だったか? 黙って夕飯食っていけばよかったのに」 「それより、平良先生の事ですが……あの人は最初からBL漫画を描いていたんですか?」 「前は翔英社の青年誌で、何本か読み切りを描いていたな。BLじゃないはずだ」 「文夏社で描くようになったのは持ち込みですか?」 「ウチの社長のヘッドハンティング。でも、今抱えている漫画家の半分はみんなそうだぜ」 「本当に辣腕なんですね。女性なのに……」  岸に言い渡された事もあり、平良の漫画をチェックしようとQuartzを捲りながらそう口にする。平良が何を描いているか興味はなかったが、仕事ならば仕方がない。  だがその手は、ぴたりと止まった。 「平良先生の漫画のタイトルは『シザービラ』でしたね」 「そうそう、あ、そのページからな」  甲斐が横でそう答えるが、尾上の耳にはその言葉は入っていなかった。  凝然として、漫画の表紙に視線を落とす。  そこには、小柄でほっそりとした体形の、プライドの高そうでツンとした雰囲気の青年の絵が描かれていた。
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